猫の知覚過敏症について獣医師が解説

走る猫

猫が背中をぴくぴくさせ、しっぽを激しく揺らしながら、まるで何かから逃げるように落ち着きなく部屋中を走ったり飛び跳ねたりする・・・これは活発で遊び好きな猫によくみられる行動ですが、この行動が過度に頻繁に繰り返される場合は、猫の知覚過敏症という未だに原因が不明の病気の症状であることもあります。

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猫の知覚過敏症(Feline Hyperesthesia Syndrome)とは?

猫の知覚過敏症は1980年に初めて報告されて以来、未だに原因がはっきりせず診断も難しい病気です。“rolling skin syndrome“、“twitchy cat disease“、“apparent neuritis“、“atypical neurodermatitis“、”self-mutation syndrome“などさまざまな呼び方があることからもわかるように、症状も多種多様で、猫が異常な行動/活動性を示すことで知られています。

本能的な行動(恐怖、不安、攻撃か逃げる)をつかさどる、もっとも古くからある脳の大脳辺縁系に、外界の刺激に対する恐怖感や不安感がインプットされますが、知覚過敏症では、猫の知覚が変わってしまい、なんでもない刺激(たとえば、触れられる、自分のしっぽの動き)に対して恐怖や不安を抱き、過剰に反応してしまうと考えられています。

知覚過敏症が発症する原因は明らかになっていませんが、外からの刺激、例えば自分のわき腹あたりやしっぽを掻くことや人に触られることに誘発される場合、または体の不快感から突発的に起こる場合があります。

てんかん発作の一種であると考えられていますが、神経疾患(脊髄や脳の炎症、中毒など〉、かゆみや痛みを伴う皮膚疾患(皮膚炎、アレルギー、アトピーなど)、筋疾患、感染症、行動学的疾患(意味のない動作を反復して繰り返す常同行動・強迫行動など)が知覚過敏症の症状を引き起こすとも考えられています。

さまざまなストレスが、知覚過敏症を発症する大きな要因であることも分かっています。猫が慢性のストレス状態にあると、警戒心や緊張感が増し、ほんの小さな刺激にも過剰に反応してしまうからです。長期にわたって不安状態が続き、些細な刺激に対して過敏に反応してしまう、人の精神疾患のひとつである全般性不安障害に類似しているとも考えられています。

ストレスの原因は、環境的な要因(引っ越しなどの環境の変化、不満足な環境、不満足な食餌、退屈、音、におい・・・)や社会的な要因(同居猫やノラネコとの緊張した関係、飼い主との緊張した関係、家族構成やライフスタイルの変化、家庭内の緊張・・・)などです。

年齢や猫種を問わず発生する可能性がありますが、比較的若い猫、純血種(とくにシャム、アビシニアン、バーミーズ、ヒマラヤンなど)に多く発症しやすいようです。神経質または落ち着きがなく過度に活動的な猫は、より大きなリスクがあると考えられており、知覚過敏症の猫は、過度に怖がったり攻撃的だったり落ち着きがなかったりします。

明確な原因が分からないため、診断は困難で確定診断をするための特定のテストはありません。猫の病歴や症状を基に検査をし、症状を引き起こす可能性のある他の病気を除外していくことになります。

症状

グルーミングする猫

症状はさまざまで、以下のような症状が組み合わさって数秒から数分、頻繁に繰り返されます。さらに進行すると、顔や全身のけいれん、唾液分泌、咀嚼運動などを伴うてんかん発作を起こすこともあります。

  • 背中の皮膚を波打たせるような動き(痙攣)
  • 過度にしっぽをふったり自分のしっぽを追いかける
  • 何かに怯えるように突然走りだしたりジャンプしたりする
  • 瞳孔の拡張空間を凝視する
  • 過度に鳴く
  • 過度のグルーミング
  • 自分の体の一部(とくにシッポや背中)を血が出るほどなめ続けたり噛んだりする自傷行為
  • 近くにいる人/物体を突然に威嚇/攻撃する

治療法

特定の治療法はありませんが、症状に応じて痛みを緩和したり、薬物治療 (抗てんかん薬、抗うつ薬、抗不安薬など)で症状をコントロールします。同時に、猫が満足できるような環境を整えてストレスとなる要因を減らすことが大切です。また、猫と遊ぶ時間を十分にとって、フードの与え方を工夫することで、猫の行動のニーズも満たされます。

猫がパニック状態になっているときに、それを止めようと手を出すと攻撃性を示すことがあるので、落ち着くまで見守りましょう。もし、猫の体に何かが絡まってしまったり、危険な場所に入ってしまったような場合は、人も猫もケガをしないようにバスタオルなどでくるんで対処します。

過度にグルーミングする場合は、心因性のオーバーグルーミングの対策も参考にしてみてください。自傷行為がある場合は、傷口の悪化や二次感染を防ぐためにも一時的に(とくに飼い主の目の届かない時間)エリザベスカラーが有効です。