猫の首筋をつかんだりつまんで持ち上げてもいいの?~ストレスのかからない猫の拘束方法は?

猫の首筋をつかむ

膝にのってきたり抱っこが好きな猫、(まれに)されるがままになっているような猫がいる一方で、抱っこされたり体を拘束されるのが苦手な猫もたくさんいます。猫をキャリーケースに入れるのが難しいために動物病院に連れて行くのを躊躇する飼い主さんもいらっしゃるでしょう。猫を拘束することとストレスの関連性も踏まえて、動物病院でのストレスを軽減するために飼い主さんができることを考えてみましょう。

猫の首筋をつかむとおとなしくなるのはなぜ?

母猫と子猫

猫は首のうしろの部分である首筋をつかまれるとおとなしくなる習性があります。これは、母猫が子猫を安全な場所に移動するときに子猫の首筋をくわえて運んだり、交尾時にオス猫がメス猫の首筋を噛んで動かないようにするときなどに見られます。子猫は運ばれるときにおとなしくじっとしてリラックスしているので、猫の首筋をつかんで猫を持ちあげることは、適切な扱いであると唱える人もいます。しかし、子猫と違い体重のある成猫の首筋をつかんで持ち上げると嫌悪感が生じるだけでなく、苦痛をともない首の血管が締め付けられる危険性もあるので不適当です。

猫の健康・福祉向上に努める国際的な団体(International Cat Care)では、人や猫が怪我をする可能性のある差し迫ったリスクがある場合を除いて、“猫に敬意を払って猫の首筋をもって持ち上げないようにしましょう”というキャンペーンを行っています。

猫を拘束することとストレスとの関連性

それでは、猫の首筋をつかむことはどうでしょうか?

子猫だけでなく、成猫も首のうしろの皮膚をつかむとおとなしくなります。首筋をつかむと猫がおとなしくなることを利用して、専用のクリップも開発されています。クリップを使って猫をじっとさせることとストレスの関連性について調べた研究結果もたくさんあります。

首筋をクリップで挟んでも猫はリラックスしており、手で猫の首筋をつかむよりもストレスの度合いが低かったという結果がある一方で、その逆の結果もあります。クリップにも様々な商品があるので、結果がクリップの種類や大きさ、取り付けられた数に影響された可能性もあります。

一番最近行われたテストをご紹介します。

テストの概要

以下の4種の方法で猫が拘束されたときの猫のストレス反応、たとえば、呼吸数、瞳孔の開き具合、耳の位置、鳴き声、口を舐める回数などが記録されました。

猫の拘束方法

a. 後ろ側から猫に手を添える程度の可能な限り最小限の拘束(他の拘束法と比較するため)、b. 全身拘束(猫を横にして四肢と首を固定する)、c. 猫の首のうしろの皮膚を手でぎゅっとつかむ、d. 首のうしろの皮膚を2つの*クリップで挟むクリップ拘束 *Clipnosis(クリップノシス)という猫専用クリップ

出典:Getting a grip: cats respond negatively to scruffing and clips. Vet Record 2020 March Volume 186(12) Carly M Moody et al.

テストに参加したのはカナダの動物保護施設の52匹の猫です。人に対してフレンドリーな猫はそうでない猫よりもストレス度は低いであろうと想定して、見知らぬ人に対する反応(見知らぬ人に猫自ら近づいていくかどうか、見知らぬ人が近づいてきたり撫でられたりするときの猫の反応)も予め調べられました。その結果、39匹はフレンドリー、残りの13匹はフレンドリーでないと判断されました。そして、aとb,c,dのうちどれかひとつの方法で拘束された時の反応が観察されました。

結果

aに比べてストレス度が最も高かったのは、b全身拘束とdクリップ拘束でした。ストレス度が高い順からb=d>c>aという結果になります。人に対してフレンドリーな猫とそうでない猫とのストレス度に大きな違いはありませんでした。

この結果からは、全身拘束とクリップ拘束は、猫の拘束方法としてはあまり適していないといえます。

動物病院でのストレスを軽減するために飼い主さんができること

動物病院などのなじみのない環境で人に扱われるのは、猫にとって大きなストレスです。自分の縄張りである家から連れ出されて、知らない場所に連れて行かれ知らない人に触られるのだからあたりまえですね。もちろん猫の気質や以前の動物病院での経験などによっても、猫の態度(行動)は大きく変わってきます。

ストレス

キャリーに入れられる、動物病院までの移動、知らない場所、動物病院のにおいや音、知らない人、拘束される・・・

ネガティブな感情

不安、怖い、フラストレーション、苦痛・・・

ネガティブな感情への反応(行動

固まる(freeze)、逃げる(flight)、攻撃する(fight)・・・

ストレスからネガティブな感情が生じ、最後の手段として防御的な攻撃行動をとることもあるでしょう。

診察時には、猫に噛まれたり引っかかれたりすることを避けるために猫を固定するのですが、多くの研究結果が、猫を強く拘束すればするほど猫が逃げようとしてストレス度も高まるので、強く拘束するのは逆効果であると結論づけています。

猫が逃げようとしてもがけばもがくほど、人や猫がケガをする可能性も高くなります。猫のストレス度が上がれば、体温、心拍数、血圧や血糖値が上がるなど検査値にも影響を与えかねません。

飼い主さんにできることは?

キャリーケース

  • 普段からキャリーケースを開けたまま部屋に置いて、猫に慣れてもらいます。お気に入りのおもちゃを入れたり、中でおやつをあげたりすれば猫も安心できる場所になります。
  • キャリーケースですが、出入り口が2つ(上と横)あり、上部を取り外してオープンできるようになっているタイプがお勧めです。簡単な診察なら猫がキャリーに入ったまますることができるので、猫に負担がかかりません。お気に入りの(においのついた)タオルを用意しておくと猫は落ち着き、場合によっては、タオルを上からかけたり、くるんだりすることで猫を固定することができます。
  • 車での移動を不安がる猫には、車で移動することに慣れてもらいます。キャリーケースに入れて車に乗せ、おやつをあげたりなでたりして猫がリラックスしていればほめてあげます。これを何度か繰り返し、車に乗ることに慣れたら、エンジンをかける、車での移動時間を少しずつ延ばしていくなどステップを踏んで慣れてもらいましょう。
  • 動物病院で診察を受けるまでの全ての過程で、飼い主さん自身が落ち着いた態度でいることが大切です。猫は飼い主さんの動揺した態度や声から、ただならぬ気配を敏感に感じ取ります。

さいごに

猫の反応は、猫種による違いや個体差も大きいです。猫のことを一番わかっている飼い主さんが、日頃から愛猫の扱いに慣れておくことが大切です。猫がリラックスしているタイミングで、猫を撫でながら体の色々な部分に触れられることに慣らしておきましょう。また、首の後ろの部分をやさしくマッサージしてあげると気持ち良さそうにする猫も多いので、猫がリラックスしている時にマッサージしながら首筋を軽くつかんでみたり、タオルで軽くくるんでみたりして愛猫がどんな反応をするのか見ておくとよいですね。猫が嫌がらずにおとなしくなる手加減を知っておけば、非常時やいろいろな場面で役立ちます。