猫の顔の表情(しかめっ面)から痛みを読み取る~猫種による違いは?

猫の顔

猫のペインスケール

猫は犬に比べると、うれしさ、痛みなどを顔の表情から読み取るのがむずかしいと考えられています。痛みがあっても、表に出さずじっと静かに耐えていることが多いからです。普段から大人しい猫や、人に触られることを好まない猫ならなおさらです。

このため、猫の痛みの治療が不十分であり、犬よりも鎮痛剤の処方が少ないという報告もあります。痛みの程度を適切に評価することができれば、動物病院での鎮痛剤の投与の際に役立てることができます。

これまでにも猫の顔(耳や口元)、体勢、鳴き声、様子や行動の変化、触られた時の反応などから痛みを評価するいくつかの“ペインスケール”が考案されています。ただ、評価するのに時間がかかるなど動物病院では実用的でないという問題がありました。

最近開発された“猫のしかめっ面スケール”は、急性の痛みを評価することができるシンプルで信頼性の高いツールです。

猫のしかめっ面スケール(グリマス・スケール)

猫のしかめっ面スケール

顔の表情から痛みを読み取るために、さまざまな動物で“しかめっ面スケール(グリマス・スケール)”が開発されており、“猫のしかめっ面スケール”は、2019年に開発されました。

協力したのは、モントリオール大学附属動物病院に来院したおよそ50匹の猫です。痛みを伴う猫と痛みを伴わない猫、痛みを伴う猫では鎮痛剤投与の前後の違いを、ケージに取り付けられたビデオカメラで撮影したスクリーンショットの画像を基に分析されました。その結果、猫の顔が緊張している(痛みがある)かどうかを反映する以下の5つの特徴が分かりました。

  • 耳の位置
  • 目の開き具合
  • マズルの緊張度
  • ヒゲ
  • 頭の位置

“猫のしかめっ面スケール”では、これらの特徴にスコア(0 = なし、 1 = 中程度、2 = 明らかにあり)をつけ、合計スコアを出します。合計スコアが4以上の場合、猫は痛みを感じている可能性が高くなると評価します。つまり鎮痛による痛みの緩和を検討する必要があると考えます。最大合計スコアは10です。

発表された論文で、トレーニングシートがダウンロードできるようになっているので、興味のある方は練習してみて下さい。トレーニングシート

協力した猫の中には、さまざまな品種の猫が含まれていましたが、ほとんどが短毛の猫で、ペルシャなどの短頭の品種は含まれていませんでした。

しかめっ面といっても猫種、たとえば平らな顔のペルシャ猫と、長い顔のスフィンクスとでは、顔の印象がずいぶん異なるでしょう。もちろん、同じ猫種でもそれぞれ個性があり、太っている猫と痩せている猫でも顔の印象が変わってきますが・・・。

猫種による表情の違い

別の研究グループ(ノッティンガム・トレント大学)も、手術前と手術後の猫の顔の写真およそ1000枚を分析し、猫の痛みを示す顔の特徴を2019年に発表しています。

分析は、アクションユニット(AU)と呼ばれる、外観に目に見える変化を引き起こす各筋肉(顔の解剖学的構造に基づいて鼻から口元、目、耳のマーク48箇所)が特定され、幾何学的形態計測と呼ばれる方法で行われました。

痛みの表情として分かったのは、以下のような特徴です。

  • 耳と耳の距離が離れ、平らになる
  • 耳のつけ根の外側の小さなポケット状になった部分の向きに違い(左耳端は内側向き、右耳端は外側向き)
  • わずかに目を細める
  • 口もと(頬と口)がすぼまるように、中心部、上部に寄り(目に近づく)、鼻は反対に、下部(目から離れる)そしてやや左方向に寄る
発表された論文の写真をみていただくとわかりやすいと思います。

さらに2020年には、同様の方法で、猫種によって顔の特徴に違いがあるのか、また、猫種によって痛みを表す表情に違いがあるのかが調べられました。

顔の特徴から3つのタイプに分類

異なる猫種の顔(左から短頭種、中頭種、長頭種の例)

分析の結果、猫の顔のタイプは以下の3つのグループに分けられました。

  • 短頭種 ⇒ペルシア、エキゾチックショートヘア、ブリティッシュショートヘア、アメリカンショートヘア、スコティッシュ・フォールド、ボンベイなどの幅広で短い頭蓋骨
  • 長頭種 ⇒スフィンクス、オリエンタルショートヘア、アビシニアン、エジプシャン・マウ、ベンガルなどの長い頭蓋骨
  • 中頭種 ⇒ドメスティック・ショートヘア、ドメスティック・ロングヘア、ロシアンブルー、メイクーン、ラグドールなどの長すぎず短すぎないその中間の頭蓋骨

グループ間で多少の重複が見られましたが。中頭種の品種は特徴が類似しており、長頭種の品種は、品種によって特徴に大きな変動範囲がみられました。

タイプ別に痛みの評価

25匹の飼い猫(ドメスティック・ショートヘア)の避妊手術後の写真を鎮痛剤投与を受ける前と後で比較して、痛みを感じている顔の特徴(鎮痛剤投与を受ける前)と他の品種の中立的な猫の顔とを比較しました。

その結果、短頭種の猫は、痛みの特徴が多く、逆に、顔の長い長頭種の猫、特にスフィンクスは、痛みの特徴が少ないことがわかりました。つまり、顔が丸く平らな短頭種の猫は、実際には痛みを感じていなくても”痛みがあるような顔”をしているということです。痛みの尺度が、中頭種の猫で開発されて使用されている場合、一部の純血種の猫では痛みの信号の信頼性が低いかもしれないことを意味します。

人による品種改良によって猫の顔の特徴が変化し、そしてこれがさまざまな表情や感情を表示する能力にも影響を与えているのかもしれません。この研究は、品種改良の問題が猫の体の健康だけでなく、顔を介してコミュニケーションする能力にも影響を与えている可能性があることを示唆しています。

さいごに

猫の顔は、猫種の違いだけでなく、猫一匹一匹の個性もあるので顔の表情だけから痛みを読み取るのはそう簡単ではなさそうですね。しかし、これらの研究が進めば、近い将来、猫種別に猫の表情から自動的に感情を読み取るシステムなんかが開発されるかもしれません・・・?

結局のところ、どんな研究結果より、愛猫の変化に気づくことができるのは、愛猫の顔を毎日見ている飼い主さんだけですね。

参考文献:

Evangelista M. C . et al. Facial expressions of pain in cats: the development and validation of a Feline Grimace Scale. Sci Rep 9 (2019)

Finka L.R. et al. Geometric morphometrics for the study of facial expressions in non-human animals, using the domestic cat as an exemplar. Sci Rep.9 (2019)

Finka L. R. et al. The application of geometric morphometrics to explore potential impacts of anthropocentric selection on animals’ ability to communicate via the face: the domestic cat as a case study. Frontiers in Veterinary Science 7 (2020)