攻撃的な犬への対処法~専門獣医師が解説

攻撃的な犬

犬の攻撃行動は、人が犬と暮らしていく上で、人や他の動物に危害を加えたり飼い主と犬との絆を損なったりするリスクのある、とても深刻な犬の問題行動のひとつです。原因を突き止め対処していく上で、まずは周りの安全性を優先します。飼主と犬がよりよい信頼関係を築くことが解決の近道です。

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犬の攻撃性とは?

攻撃性とは、相手に危害を加えようとしたり、相手との距離を広げることを意図した威嚇行動と定義することができます。また、こうした意図を伝えるために用いられる表情、身体姿勢、発声ともいえます。威嚇行動とは、吠える、にらみつける、うなり声、うなる(歯をむく)、頭を振る、キレる、体を硬直させる、咬みつくなど、その程度もさまざまです。ただ、これらの行動のいくつかは、遊びのような攻撃的でない場面でみられることもあります。攻撃性の前兆として通常、不安や緊張を示す微妙なシグナル(例えば、唇をなめる、瞳孔を開く、耳を横に向ける、または頭を平らにする、尾をひっこめる、頭や体を反らして回避するなど)がみられますが、多くの場合は気づかれないことも多いです。

犬の攻撃行動はその動機によって以下のように大きく分類することができます。

社会性攻撃行動 

犬同士の優劣関係(順位づけ)が安定していないことよって生じる犬同士の攻撃行動や、犬だけでなく、家族内の人に向けられる攻撃行動です。フードボウル、好きな人、おもちゃ、快適な寝場所などをめぐって、人や犬に威嚇する行動(所有的攻撃性)もこれに含まれます。

遊びに関連した攻撃行動

遊び行動がエスカレートして生じる攻撃行動で、社会性攻撃行動の一種と考えることもできます。幼犬は他の犬との遊びやスキンシップを通して、どこまでが遊びの許容範囲であるのかや犬同士の優劣関係を学びますが、社会化期(生後およそ3~14週齢)にこれらの接触が不足すると、成犬になっても遊んでいる間に威嚇行動をとることがあります。

恐怖性/防御性攻撃行動

どんな犬も恐怖や不安を感じたときに攻撃的な行動をとる可能性がありますが、とくに追いつめられて逃げ場がなく、恐怖を引き起こす刺激を避けられないと感じたときに、最終手段として、争いという手段に出ます。個々の犬のこれまでの経験(とくに嫌な経験)に大きく影響されます。

テリトリー性(縄張り性)攻撃行動

自分の縄張りを脅かす対象(人や動物)に向けられる攻撃行動(まずは吠える)で、犬が自分の縄張りを守ろうとする警戒本能です。

捕食性攻撃行動

本来、獲物(動く小動物など)に忍びよって追いかけ捕らえる狩猟行動が、他の動く対象(例えば、他の動物、赤ちゃん、ジョギングする人など)に向けられる攻撃行動です。生まれつき強い狩猟本能をもった犬種(狩猟犬)もおり、この行動は犬種や個体差がかなりあります。

母性攻撃行動

本来、母犬が子犬を守るために示す攻撃行動ですが、偽妊娠におけるホルモン変化によっても攻撃行動が生じることもあります。

痛みに誘発される攻撃行動

病気や怪我などによって痛みがあるときに生じる防御的な攻撃行動です。

転嫁性攻撃行動

刺激(攻撃的な情動)となる原因と直接関係のない人や他の犬に向けられる攻撃行動です。

特発性攻撃行動

医学的な検査によっても原因が不明な攻撃行動です。てんかんや認知症など脳の疾患が関連している可能性もあります。

原因

犬の攻撃行動の多くは、犬が必要なものを手に入れたり、他の仲間と安定した関係を築いたりするための“犬の正常な行動”であるともいえます。個々の犬の一般的な攻撃性の閾値(行動を誘発させるのに必要な最小の刺激の強さ)は、遺伝的要素、出生前の環境(母犬のストレスや病気など)、社会化期(生後およそ3~14週齢)やその後の幼犬期の過ごし方、これまでの経験に大きく影響されます。

犬の性別、年齢、大きさ、健康状態、食事の質(例えば過度のたんぱく質摂取)、生活環境、飼い主との関係などさまざまな情報をもとに、どんなときに何に対して攻撃行動をみせるのかを分析しながら、慎重に原因を探っていく必要があります。動機となる要因は複数考えられますが、犬の恐怖心とストレスが根底にあることが多いです。

適切でない飼育環境運動不足精神的なストレスフラストレーションなどが原因になっていることも多く、飼い主の間違った対応、例えば、犬を怒鳴ったり罰したりすることなどによって攻撃性に拍車がかけられていることも少なくありません。

また、精神状態を変化させる神経疾患や急性の痛みが攻撃性に直接つながる可能性があります。さらに、内分泌疾患(たとえば甲状腺機能低下症)、内臓疾患、あるいは不快感の原因(皮膚病から慢性変形性関節症まで)は過敏性を引き起こし、犬を攻撃性の閾値に近づける可能性もあります。このため、動物病院での身体検査は欠かせません。

対処法

犬の攻撃性に対する治療は、慎重に原因を突き止めた上で、原因となる病気があればその治療、環境や飼い主と犬との関係を改善、そして根底にある恐怖や不安に対する行動修正などが含まれます。

過度の不安症からくる攻撃行動には、恐怖や不安を抑制する薬物療法や栄養補助食品を補助的に使うことが有効なこともあります。他の対策と併用して補助的に使うことで効果があり、決して薬の投与だけで問題行動が解決するわけではありません。

薬物療法や栄養補助食品については、こちらを参考にしてください。

犬をコントロールするのに便利なグッズ

口輪

人や他の犬に危害を加えるリスクがある場合は、まず周りの安全を第一に考え口輪に慣れさせることからはじめます。口輪は、内側にペースト状の犬のおやつを塗ったりして徐々に慣らします。一日に数回練習し、口輪を見るだけで犬が飛んでくるようになるまで練習。そして徐々に口輪をはめる時間を長くし、口輪をしたら必ずほめてあげます。嫌がる場合はそこで練習はストップし、次の日に改めて繰り返しましょう。口輪は、物理的に人や他の犬に危害を加えたり、拾い食いを防いだりするだけでなく、飼い主の心理状態に影響します。つまり、飼い主は例えば他の犬に危害を加えたらどうしようなどという不安感、緊張感やストレスから解放され、飼い主の心理的にリラックスした状態は、犬の緊張感やストレスを和らげることにもつながります。

犬のリードジェントルリーダー(左)とイージーウォークハーネス(右)

犬をコントロールする上で効果的なグッズに、ジェントルリーダーやイージーウォークハーネスがあります。

ジェントルリーダーは、母犬が子犬のマズルを軽く咬みダメだと教えるのと同じような効果、首の後ろは、母犬が子犬をくわえ安心感を与えリラックスさせるのと同じような効果があります。散歩中にリードを引っ張ったり、人や他の犬に突進しようとする犬をコントロールするのに効果的です。

何らかの問題でジェントルリーダーを装着できない(例えば、マズルの部分が短い犬種、目の病気、どうしても嫌がるなど)場合は、イージーウォークハーネスが効果的です。

通常のリードでは、犬が引っ張ると飼い主はそれにつられてリードに力を加え犬を後ろから引っ張ろうとし、犬は引っ張られると、習性からよけい前に出ようとします。リードが前に付いているので、犬がリードを引っ張っても進行方向が横に向き、飼い主は愛犬の注意を自分の方に向けさせたり、犬を誘導して簡単に方向転換させることができます。

口輪と同様に、いきなり装着せずに、まず家の中で犬が違和感を感じないように慣らすことが大切です。ほうびなどを使って少しずつ慣れてもらい、完全に犬が慣れたところでリードを付けて散歩に出るようにします。

攻撃の対象による対処法

飼い主(家族内の誰か)に攻撃的

社会性攻撃行動であることが多く、犬と飼い主(家族内の誰か)との信頼関係が安定しておらず、攻撃性を示したり恐がったりします。ある状況(例えば、ブラッシング、爪切り、撫でる、だっこ、フードボールやおもちゃを飼い主が取ろうとする・・・など)で威嚇したり、エスカレートすれば咬みついたりします。

攻撃性を引き起こす典型的な状況を把握して、ケガをしたり攻撃性がエスカレートしないように、まずはこれらの状況を避けます。

飼い主がいつでも主導権を握ることをはっきりさせるため、食事前、散歩前、遊ぶ前など、犬にとってうれしい出来事をする前に必ずできるようになったコマンドを一度だけ与えるようにします。「働かざるもの、食うべからず!」の精神です。コマンドはいつも同じにならないよう注意します。「オスワリ」すれば何でももらえると思わせてはいけません。 コマンドに従えば要求に応え、従わなければ犬に注意をはらうことなく無視し5~10分後にもう一度繰り返します。

犬が十分エネルギーの発散できるように、コマンドトレーニングだけでなく、犬の好きな遊びをとりいれ、飼い主が犬といっしょに楽しめる時間を持つことが大切です。

コマンドトレーニングは、こちらを参考にしてください。

知らない人に攻撃的

恐怖性/防御性攻撃行動であることが多く、知らない人に対する恐怖性や防御性から威嚇行動をとります。犬が社会化期やその後も人と接する機会がなかったことが大きな原因で、特定の人(男のひと、子供、黒い服を着た人だけ・・・など)との嫌な経験から、似たような人を怖がる場合もあります。威嚇行動をとって成果がある、つまり知らない人がいなくなったりその人との距離が大きくなれば、威嚇行動がさらに強化されていきます。

知らない人に対するテリトリー性(縄張り性)攻撃行動であることもあります。家、庭、車などだけでなく自分の散歩道など犬が自分の縄張りと認識している場所や対象に近づいてくる人に対する攻撃行動です。ジョギングする人や自電車で通り過ぎようとする人に対して捕食性攻撃行動をみせることもあります。

行動修正法(系統的脱感作、拮抗条件づけを組み合わせ)を使って、根気よく行動を修正していきます。不安、ストレスなどを引き起こす刺激が明確に分かっている場合に、これが中立的な刺激になる(反応しない)ようになるまで少しずつ慣らしていき、同時にこれらの刺激と好ましいこと(たとえばおいしいおやつ)を組み合わせ、ネガティブな感情をポジティブな感情に変えていく修正法です。時間をかけて根気よく繰り返す必要があります。

学習理論や行動修正法についてはこちらで詳しく解説しています。

たとえば、訪問者に家に来てもらい、はじめは犬が反応しない十分な距離をとってもらい、犬のことは“見ない、話しかけない、触らない”ようにして、常にゆっくりとした行動をとってもらいます。慣れてきたら、犬の大好きなおやつなどを、はじめは遠くから投げ、訪問者の存在をうれしいといった反対の感情に条件づけていきます。場合によっては、犬を口輪やリードでコントロールします。

散歩中も同様に、人(知り合いなどに協力してもらうのが理想的です)と十分な距離をとってジェントルリーダやイージーウォークハーネスで犬をコントロールしながら、人が近づいてきたら落ち着いた態度でコマンドを与え、犬が静かにしていればおやつなどをあげてほめてあげます。人の存在と好ましいことを関連づけしていきます。念のため、いつでも犬をコントロールして、反対方向に方向転換できるように練習しておきましょう。

同居犬に攻撃的

社会性攻撃行動であることが多く、犬同士の優劣関係(順位づけ)が安定していないことによって生じます。新しい犬を迎えたとき、強かった犬が高齢になって力関係が逆転したとき、グループの中の1匹がいなくなったときなどがきっかけになることが多いです。社会化期よばれる社会環境に適応しやすい時期に仲間の犬とふれ合う時間を十分にもたなかった犬は、他の犬のシグナルが適切に読み取れず、コミュニケーション能力が欠け、グループに順応するのが難しいこともあります。

仲間の犬と遊んでいて、たとえば、関節の痛みなどが生じ、これがきっかけとなって(仲間の犬と痛みが関連づけされて)攻撃行動(痛みに誘発される攻撃行動)を示すようになることもあります。

まず、攻撃性を引き起こす典型的な状況を避けることが大切です。たとえば、おもちゃをめぐってケンカを始めるようなら、おもちゃは片づけます。食事のときにケンカを始めるなら、フードを別々の場所であげます。それぞれの犬にお気に入りの寝場所を与えてあげましょう。

飼い主がいつでも主導権をとれるように、日頃からコマンドトレーニングを通して、どの犬もしっかりコントロールできるようにしておきます。

犬同士の順位づけは、犬の性別、年齢、大きさ、気質、健康状態、去勢の有無、先住犬・新入り犬か・・・などによって決まり、通常は犬同士ケンカをしながらも自然に落ち着いてきます。順位づけが安定していないようなら、飼い主は犬同士の関係を見極め、上位(順位が上)の犬を、いつも(たとえば、ごはんをあげたり撫でたりするなど)優先するようにします。ケンカをしたら、下位(順位が下)の犬を別の部屋に連れて行きます。ただ、6週間ぐらい続けても順位づけが安定しないようなら、もう一度犬同士の関係を見直します。

もし、相手にケガを負わせるほどのケンカに発展したら、飼い主は自分がケガをしないように、大きな音でびっくりさせたり、折りたたんだ段ボールなどで犬同士を離します。一時的に犬を完全に隔離し、リードでコントールしながら時間をかけて犬同士の距離を少しずつ縮めていきます。

犬が心身ともに満足できるように、十分に運動(散歩)させ、犬の好きな遊びを取り入れることがストレスの発散につながります。

知らない犬に攻撃的

けんかする犬

恐怖性/防御性攻撃行動であることが多く、ほとんどの場合は、他の犬に対する恐怖性や防御性から威嚇行動をとります。犬が社会化期やその後も他の犬と接する機会がなかったことが大きな原因で、他の犬との嫌な経験から他の犬を怖がる場合もあります。威嚇行動をとって成果がある、つまり他の犬がいなくなったり犬との距離が大きくなれば、威嚇行動がさらに強化されていきます。

他の犬に対するテリトリー性(縄張り性)攻撃行動であることもあります。家、庭、車などだけでなく自分の散歩道など犬が自分の縄張りと認識している場所や対象に近づいてくる犬に対する攻撃行動です。

行動修正法(系統的脱感作、拮抗条件づけを組み合わせ)を使って、根気よく行動を修正していくことが大切です。

攻撃性を引き起こす典型的な状況を把握して、ケガをしたり攻撃性がエスカレートしないように、まずはこれらの状況を避けます。

たとえば、はじめは、どんな犬にもフレンドリーな犬を飼っている飼い主さんに協力してもらって十分な距離をとり、その距離を少しずつ縮めていきます。飼主は、ジェントルリーダやイージーウォークハーネスで犬をコントロールしながら、他の犬が近づいてきたら落ち着いた態度でコマンドを与え、犬が静かにしていればおやつなどをあげてほめてあげます。犬がリラックスしていることを確認しながら、他の犬の存在と好ましいこと(たとえばおいしいおやつ)を関連づけしていきます。念のため、いつでも犬をコントロールして、反対方向に方向転換できるように練習しておきましょう。

飼い主がいつでも主導権をとれるように、日頃からコマンドトレーニングを通して、犬をしっかりコントロールできるようにしておきます。

去勢のオス犬が未去勢のオス犬に攻撃性を示したりメス犬を追いかけたりする場合は、去勢手術を考慮します。手術はちょっと・・・と言う方は、去勢手術をする前に、化学的去勢(去勢チップとも呼ばれる男性ホルモンを抑制するホルモン剤のインプラントで効果は6~12カ月)を使って、行動に変化がみられるかどうかをみる方法もあります。

日本では現在許可されていないかもしれません。

まとめ

犬の攻撃行動は、犬の恐怖心とストレスが根底にあることが多いです。社会環境に適応しやすい社会化期や幼犬期に、さまざまな環境の刺激を吸収し、他の犬やいろいろなタイプの人とふれ合う時間を十分にとることで、他の犬や人とのコミュニケーション能力や適応力を身につけていきます。問題行動が起こらないような犬に育てることが”問題行動の予防”につながります。

心身ともに満足できるように個々の犬の行動ニーズを満たし、基礎のトレーニングを通じて、犬との信頼関係をしっかり築くことが犬とのハッピーライフにつながります。

犬を手放そうと考えるほど深刻な犬の攻撃行動に悩んでいる飼い主さんは、ひとりで抱え込まずに専門家に相談してみることをおすすめします。