犬のシニア期と老化のサイン~シニア犬に多い問題行動とその対処法を獣医師が解説

老犬

犬もシニア期に入れば、見た目にも行動にも老化のサインみられます。年とともに、これまでにはみられなかった“困った行動”がみられるようになることもあります。どんな行動がよくみられるのか、そしてその対処法について解説していきます。

犬のシニア期は何歳ごろから?

犬のシニア期は何歳ごろからはじまるのでしょうか?

犬のライフステージ(成長段階)は、全米動物病院協会では現在、子犬期、若年成犬期、(中年)成犬期、シニア期に分類されてされていますが、犬種や大きさ、個体によっても差があります。ほとんどの犬は6~9ヶ月ごろまでに、急激に成長する子犬期が終わり、3~4歳までには性成熟および成長が完了します(若年成犬期)。その後の成犬期を経て、推定寿命が残り4分の1になったあたりからをシニア期とよびます。

成犬の体重は品種によって3kg~90kgと大きな差があります。小型犬は大人になるのが早いですが、その後はゆっくりとしたスピードで年をとっていきます。逆に大型犬は、完全に成長して大人になるまでに時間がかかりますが、その後は速いスピードで年をとっていきます。下のグラフは犬の年齢を体重別に人の年齢に換算したものです。小型犬の方が大型犬よりもゆっくり年をとっていくのがわかります。このため、犬全体の平均寿命はおよそ14歳ですが、小型犬の方が大型犬にくらべると長生きする傾向があります。

大型犬と小型犬

シニア期は小型犬では11歳ごろ、中型犬では8~10歳ごろ、大型犬では7~8歳ごろから始まると考えます。

犬の体重別年齢を人の年齢に換算  (Vet Clin North Am Small Anim Pract 2012; P825参考)

老化のサインは?

ラブラドール 老犬

シニア期に入れば、見た目にも行動にも「年をとったなあ・・・」と思えるような老化のサインみられます。

老犬チェックリスト

外見上、老いがあらわれやすいのは、目・歯・毛・皮膚や体型です。

  • 涙の分泌量が減り、老廃物が溜まりやすくなったり、細菌感染しやすくなったりするので目ヤニが増える
  • 加齢とともに水晶体繊維が中心部に押されて硬化することで、水晶体が白くなってくる(水晶体核硬化症)*水晶体の老化によるもので白内障と間違えやすいですが、水晶体核硬化症では瞳孔の中心部が青白っぽく見え、視力には影響しません。

  • 歯がすり減って短くなる
  • 歯茎の色素沈着が増える
  • 歯に歯石が付いて黄色っぽくなる
  • 歯茎が炎症を起こしたり、口臭がしたり、歯が抜けたりする(歯周病)

  • 鼻が乾燥してパサパサしてくる

  • 白髪が増える、まず鼻や口のまわりに現れ徐々に体にひろがる
  • 毛量が減りパサつきやすい
  • 毛づやが悪くなる
  • 毛が伸びにくくなる

皮膚

  • 弾力性がなくなる
  • 乾燥しフケが目立つ
  • シミやイボなどができやすくなる

体型

  • 筋肉量がへり、お尻や後ろ肢が細くなる
  • やせたり太ったりなど体重が変化

また、人と同様、犬も年をとると、外界の情報を感知するための感覚機能(五感=視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚)が衰え反応が鈍くなり、骨、筋肉、関節の衰えにともない運動能力も低下します。見た目や体だけでなく行動にも変化がみられるようになります。

  • 寝ている時間が長くなる
  • 活動性が低下し、立ち上がったりなど一つ一つの行動にも時間がかかる
  • 散歩時の歩幅も狭くなり、トボトボと歩く
  • 耳が遠くなり名前を呼んでも返事しない
  • 視力が低下して飼い主のことを(集中して)じっと見る
  • 筋肉量が減り、血行や代謝も悪くなることで寒がりになる

シニア犬に多い問題行動と対処法

犬が年をとるにつれて“困った行動”をみせるようになることがあります。人も年をとると頑固でわがままになったり、寂しがりになったり、不安になったりすることがあるのと似ています。しかし、その行動が日常生活に支障をきたし、飼い主によって「問題あり」と認識されれば、それは飼い主にとって”問題行動”となります。

とは言え、犬も年をとると環境の変化やストレスに対する適応能力や免疫機能が低下して、病気になることも増えます。突然の問題行動痛みや病気のサインであることも多いので、まずは動物病院で健康チェックをしてもらいましょう。

シニア犬の問題行動は、認知機能の低下が原因になっていることも多いので、こちらも参考にしてください。

シニア犬に多い問題行動には、不安からくる攻撃行動、分離不安、夜鳴き(夜間落ち着かない)があげられます。

攻撃行動

シニア犬が攻撃的な態度をとるようになることがあります。多くの場合は視聴覚の機能や認知機能が低下することが原因です。たとえば、視力が低下して飼い主の手に気づかず急に触れられてビックリして噛んだり、散歩で他の犬に出くわすと不安になって、防衛本能から威嚇するなどです。

叱ったりなだめたりすると犬の不安がさらに増すので、飼い主はまず、犬が威嚇する様な場面(他の犬と出くわすなど)をなるべく避け、状況に応じて方向転換する、オスワリやフセさせるなどします。犬が年をとって覚えるのが遅くなっても、コマンドのトレーニングを続けることは脳への刺激にもなります。

犬では視覚・聴覚にくらべて嗅覚の衰えはゆっくりと進むので、散歩中も嗅覚を使う遊びを多くとりいれます。適度な運動でエネルギーを発散することで精神的にも満たされます。

また、飼い主は犬とコンタクトをとる際には名前を呼んであげ、急な動きは避けてゆっくりとした動きで、犬の好みに応じてブラッシングやマッサージするなどスキンシップの時間を十分にとりましょう。

分離不安

分離不安では、犬が飼い主が傍にいないと不安になることで、留守中にドアを引っかく、物をこわす、過剰にほえる、排泄するなどの問題が生じます。シニア犬が急に留守番できなくなるのは、視聴覚や認知機能の低下によって不安感が増すことが原因であることが多いので、犬に安心感を与えてあげることが大切です。

まずは、留守番させるのを極力避けて、留守番に徐々に慣らして不安をなくしていく方法をとります。適度な運動でエネルギーを発散し、リラックスできる場所を与えてあげると同時に、留守番できるようにトレーニングしていきます。

対策については、こちらを参考にしてください。

夜鳴き

夜中に意味もなく鳴き続けることがあります。若い頃の鳴き声とは違い単調な大きな声です。

まずは、空腹や寒さなどなにか不快なことが原因になっていないかチェックし、できることは改善します。

夜になって静かになると鳴き出すことが多いので、昼間は日光浴をさせたりして寝ていたら遊びにさそってアクティブに過ごさせ、夜間は電気を消して快適な場所で静かに休息させて健康な睡眠・覚醒サイクルを維持することが大切です。

大きめのキャリーケースなど犬が中でリラックスして過ごせるような場所を用意することで症状が改善することもあります。はじめのうちは、ドアを開けて自由に出入りできるようにして、焦らずに時間をかけて、犬がひとりでいることができる時間を徐々に延ばしてトレーニングします(はじめはドアを開けておき、リラックスできるようになればドアを閉める)。昼間に十分に運動をさせて、夜間そこで静かに過ごせるようにとレーニングしていきます。

薬物療法

過度の不安症や不安症からくる攻撃行動などに使用される薬剤には、抗うつ剤や抗不安があります。長期にわたり犬の不安な状態が続けば犬の体調に悪影響を及ぼしかねません。犬の長時間の夜鳴きなどが続けば、飼い主さん自身の普段の生活に支障をきたすことにもなります。そんな時はひとりで悩まずに、専門的な知識のある獣医師に相談して薬物治療も一選択として考慮すべきでしょう。

抗うつ剤は3つのグループに、抗不安剤は2つのグループに大きく分類されます。薬物の効果はさまざまで、同じ症状を示しても固体によっても薬の効き具合に差があります。この分野で使用されている薬は、特に動物用の薬ではなくほとんどが人間に一般的に処方されている薬です。

抗うつ剤

  1. 三環系抗うつ薬⇒クロミプラミン、アミトリプチリンなど
  2. 選択的セロトニン再取り込み阻害薬SSRI⇒フルオキセチン、フルボキサミン、パロキセチンなど
  3. モノアミンオキシダーゼ阻害薬⇒セレギリンなど

抗不安剤

  1. ベンゾジアゼピン系薬⇒ジアゼパム、アルプラゾラム、オキサゼパムなど
  2. セロトニン5HT(1A)受容体の部分作動薬⇒ブスピロン

これらの薬物はいずれも脳内の神経伝達物質(セロトニン、ノルアドレナリン、ドーパミン、GABAなど)を調節することで、神経の興奮を抑えたり不安を和らげたりする働きがあります。

鎮静薬やベンゾジアゼピン系薬など古くから使用されていた抗不安剤は、薬物耐性ができやすいため長期間の使用ではなく、特別な場合(長時間の旅行の前や予定されている大きな花火の音に対しての不安を和らげるなど)のみに使用されます。

クロミプラミン(三環系抗うつ薬)は、ドイツでもはじめて犬の分離不安に対しての治療薬として許可が下りた薬です。最近は、比較的副作用も少なく飲ませやすいフルオキセチンフルボキサミン(選択的セロトニン再取り込み阻害薬SSRI)が、犬や猫のさまざまな問題行動治療に積極的に使用されています。セロトニン5HT(1A)受容体の部分作動薬は、比較的新しい薬で作用はそれほど強くありません。セレギリンは犬・猫の認知症に投与されることがあります。

どの薬にも長所・短所があり、組み合わせてよい薬、組み合わせてはいけない薬もあります。また、効果が得られるまでに長期使用しなければならない薬もあるので、使用法、副作用なども含め獣医師と密にコンタクトをとりながら適量をコントロールしていきます。定期的に血液検査をし健康状態をチェックすることも必要になってきます。薬物治療(向精神薬)は、あくまでも環境の改善行動療法とともに補助的に併用することで効果があり、決して薬の投与だけで問題行動が解決するわけではありません。

サプリメント

サプリメントには以下の成分やいくつかの成分を組み合わせた商品があります。効果を高めるためにビタミンB群とマグネシウムが配合されていることも多いです。

インターネットなどで安易に購入できますが、他の薬と相互作用があったり、副作用があることもあるので獣医師に相談しましょう。

有効成分名期待される効果
α-カソゼピン牛乳に含まれるペプチドで、鎮静作用があり不安をやわらげる
L-トリプトファンセロトニン合成の前駆物質となるアミノ酸でセロトニンの合成を高めて不安を緩和
L-テアニン緑茶に多量に含まれるアミノ酸の一種で、リラックス効果
γ-アミノ酪酸(GABA)抑制系の神経伝達物質として、脳の興奮を抑え不安や興奮を鎮める
バルドリアン西洋カノコ草とよばれる薬草で鎮静や催眠効果

さいごに

人と同じで犬も年をとれば、視聴覚が衰えたり、今までできたことができなくなったりして何となく不安になるのではないでしょうか・・・。もちろん、言葉で表すことはできないので、実際にシニア犬がどう感じているのかはわかりませんが、飼い主は犬が安心して過ごせるように、できるかぎりサポートしてあげたいですね。