人気の小型犬~からだの小さな犬に特有の健康上や行動の問題を獣医師が解説

チワワ

日本だけではなく、これまで比較的大型犬が人気のあった国々でも、最近小型犬の人気が増しています。同じ犬種の中でも、“ミニチュア・・・“とか”トイ・・・“といわれる通常のサイズよりも小さなサイズの犬を求める人も増えています。人気が続けば、今後も犬の小型化が進む傾向にありますが、さまざまな問題点もあります。

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犬をどうやって小型化する?

ブリティッシュ・ケンネル・クラブの報告によると、平均的な飼い犬の大きさは25年前に比べると約2.5 cm小さくなり、とくにスタンダードとミニチュアのタイプが存在する品種では、 ミニチュアタイプへの人気が高まっています。

小さな犬種に人気が集まる理由はさまざまです。その小さくて愛らしい外見はもちろんですが、住宅事情の変化から小型犬を飼う人が増えました。やはり小型犬の方が移動が簡単で都市生活のスタイルに適しています。犬はアウトドアアクティビティーを一緒に楽しめるよきパートナーですが、小型犬の場合は、時には服を着せておしゃれをして一緒に外出・・・なんていう楽しみ方もあるでしょう。

体が小さい分、大型犬よりも食費や治療費は少なくてすみますが、小型犬は平均すると大型犬より寿命が長いので生涯必要経費を考えると、経費が理由で選ばれることはなさそうです。むしろ「少しでも長く一緒にいたい」という気持ちから、平均寿命が長い小型犬が選ばれることもあるかもしれません。

同種の犬のなかでも、ミニチュア・・・“とか”トイ・・・“といわれる小さな犬はどうやってうまれたのでしょう?大きく分けて3つの方法があります。

  1. 標準より小さな個体を選別して同種交配を重ね、遺伝要素を変えることなく時間をかけて徐々に小型化する方法です。例えば、元々狩猟犬のダックスフンドですが、19世紀末ごろ、小さなダックスフンドの方がアナグマやキツネ、ウサギのいる穴に侵入しやすいので狩猟に有利であると考えられました。そして、可能な限り小さいダックスフンド同士の交配が行われ、時間の経過とともに“ミニチュアダックスフンド”が誕生しました。
  2. 違う犬種、小型の純血種との異種交配で品種改良する方法です。1の方法に比べると時間がかからないため、多くの場合は、この方法がとられています。例えば、ミニチュアシュナウザーは、スタンダードシュナウザーとそれよりも小型のアフェンピンシャー、ミニチュアピンシャー、ミニチュアプードルなどと掛け合わせて小型化されました。
  3. 骨軟骨異形成の特性をもった犬種と交配させて品種を小型化する方法もあります。例えばダックスフンド、ウェルシュ・コーギーなどの“短足”になる遺伝子をもった犬と交配させると遺伝子の影響で骨と軟骨が十分に成長せずに、手足が短くなります。

2や3など、違う犬種と掛け合わせで改良された品種では、品種特有の病気の遺伝子や特定の薬品に対する中毒性が引き継がれる危険があります。

小さな犬の健康上の問題

小さな犬と大きな犬

犬種特有の遺伝性疾患の他に、犬の小型化にともなう多くの健康上の問題があります。

小型犬に共通する疾患の多くは、大型犬の疾患とは異なります。たとえば、歯と口腔の違いですが、小型犬は大型犬よりも顎が小さくて骨物質が少なく繊細なため、乳歯が抜け切る前に永久歯が生えてきたり歯周病に苦しむ傾向があります。

気管の一部分が狭くなって呼吸が苦しくなる“気管虚脱”も、小型化された「トイ種」により多くみられます。心臓内の僧帽弁という弁が変性してきちんと閉じなくなり、血液が逆流してしまう“僧帽弁閉鎖不全症”も小型犬に多く発症します。超小型犬やパグやブルドッグなどの短頭種では、母犬の産道に比べて赤ちゃんの頭が大きいので難産になることが多く、帝王切開が必要になることもあります。

また、小型犬ではワクチンの副作用が出やすい傾向にあります。通常、経口薬や注射薬は犬の体重に応じて適量が投与されますが、ワクチンは犬の大きさにかかわらず同じ量のワクチンが接種されるからです。また、トイ種は低体温症などの麻酔関連の合併症を起こしやすく、手術時の麻酔のリスクも高くなります。

小型犬の流行にともない、成長期にわざと十分な食餌を与えなかったり低カロリーの食事を与え続けることで小さくみせたり、未熟児で健康面に問題のある子犬をティーカップサイズの超小型犬として販売しようとする悪質なブリーダーも存在します

これらティーカップに入るほど極小サイズの超小型犬(ティーカップ犬)では、さらに問題が悪化し健康面で大きなリスクを負う犬もたくさんいます。

たとえば、小さくてもろい骨が原因で、普通に跳んだり遊んだりするだけで骨折することもあります。普通サイズの犬ならあまり問題にならないような一過性の下痢でも、超小型犬では深刻な脱水症状に陥ることもあります。

食餌に関しても、低血糖になりやすいので、1日に数回給餌する必要があります。また、超小型犬を飼っている飼い主さんは、少量でも人の食べ物を与えていると肥満や栄養素の欠乏を招いたり、中毒を引き起こす可能性もあります。

ティーカップ犬は、健康問題などを理由に多くのケネルクラブによって認識も登録もされておらず、健康上のリスクからこれらの犬の繁殖は推奨されていません。

小さな犬の行動の問題

パグ

からだの小さな犬の方がよく吠え、大きな犬にもかかっていく・・・というイメージを持っている方も多いのではないでしょうか?大きな犬の方がきちんとしつけられているのでしょうか?

実際、大型犬が攻撃性を示したり人や他の犬を噛んだりすれば大変なことになるので、大型犬を飼っている飼い主さんは(もちろん例外もありますが)、きちんとしつけることをより自覚されていると思います。わたしが見てきた事例でも、大型犬よりも小型犬の方が問題のある行動を示すことが多いように感じます。

大型犬では「危険」とみなされる望ましくない行動が、小型犬ではむしろ「かわいい」とみなされ、その行動が飼い主によってさらに強化されることも少なくありません。

たとえば、大型犬が他人、とくに高齢者や子供に飛びついたりすれば大けがをする可能性もあるので飼い主さんは止めるようにしつけると思いますが、これが小さい犬では”あいさつしているだけだから“と放っておかれることもあるかもしれません。

また、小型犬が他の犬に攻撃的な態度を示しても、“コマンド“を教えたり行動を修正する代わりに抱っこしてその場を去れば、この行動はなくなるどころか悪化する一方です。

子犬の時の「甘噛み」も、”小型犬だから少しぐらい大丈夫・・・”と放っておくと、エスカレートして、成犬になってから手に負えなくなることもあります。そして、超小型犬や猫に噛まれて小さな傷だからと軽く考えていると、思わぬ感染症を起こして重症化することもあります。

もしも犬や猫に噛まれたら、小さな傷でもすぐに傷口を水道水で洗い流し(できれば5分以上)、ガーゼなどで覆って、念のため医療機関で治療(抗生物質の投与や破傷風の予防接種など)を受けましょう。
「甘噛み」対策ですが、子犬の時から人の手を使って遊ばないように心がけます。甘噛みされたら、さわいだり急に手を引いたりせず背中を向け無視し、それでも絡んでくるようならその場を無言で立ち去りましょう。少し落ち着いたら、噛んでもいい適切なおもちゃを与えて遊んであげましょう。

実際に、犬の大きさ(体高、体重、頭の形)と問題があると思われる36の行動との関連性について49種の犬種、およそ8300匹の犬を対象に調べた研究報告があります。ただし、行動のスコア(強度や頻度)は飼い主の回答に基づいており、研究者による直接の観察ではありません。

結果は・・・

マウンティング、触られるのを嫌がる、留守番時のオシッコやウンチ、他の犬を怖がる、物や音を怖がる、分離不安に関する問題、飼い主への攻撃性、食べ物をねだる、尿マーキング、つきまとったり注意を引こうとするなどの行動は、体高の小さな犬種により頻繁にみられ、刺激に対して興奮しやすいのは体重の少ない犬種でした。つまり、体が小さな(体高、体重が小さい)犬ほど望ましくない行動を頻繁に示したという結果でした。

もちろん、これはひとつの統計結果にすぎず、小型犬が必ずしも望ましくない行動をするというわけではありません。同じ犬種の中でも犬それぞれ個体差があり、遺伝や環境要因が犬の行動に大きな影響を与えます。

しかし、からだの小さい犬種は、大きな犬種とくらべて室内で飼われて十分な運動をしていなかったり、抱っこされて過度に甘やかされる傾向があり、望ましくない行動が飼い主によって強化されがちです。

そして、小型犬でも大型犬でも、どんな犬種でも同じように基本的なしつけをしなければならないと誰もが頭ではわかっていても、問題が起きれば大きな犬は小さな犬よりもはるかに大きなダメージを与える可能性があるので、犬の大きさや犬種によっても、犬が外見で差別されていることは否定できません。

さいごに

犬の大きさや犬種にかかわらず、犬を飼ったらきちんと基本的なしつけをしてコミュニケーションがとれるようにし、犬が安心して幸せに暮らせるように「信頼関係」を築くことが大切です。

小型犬や超小型犬を飼おうと思っている方は、大型犬とは異なる小型犬に特有の健康上や行動の問題も知っておきましょう。さらに小さなティーカップサイズの犬は、健康上のリスクも大きくなるので特別のケアが必要です。“小さくてかわいいし気軽にどこにでも連れていける“などと安易に考えて選ぶべきではありません。

参考資料

Der Trend zum kleinen Hund: Auswirkungen der Körpergröße auf die Gesundheit

Veterinary Focus April 2017