食事と行動の関係を獣医師が解説~犬や猫の問題行動を改善するための食事やサプリメントは?

ドッグフード

栄養バランスのとれた食事が、わたし達人間だけでなく、犬や猫の健康維持に大切なことは、皆さんもよくご存知です。食事は、健康だけでなく行動にも大きな影響を及ぼします。犬や猫が、飼い主の望まない”困った行動“をとったときに、その行動を改善するために適切なフードやサプリメントをとり入れることで、行動が改善されることもあります。

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食事が行動に影響を及ぼす理由

食餌の成分は動物の行動に大きな影響を及ぼします。食餌から摂取する栄養素が、行動に影響を与える脳のさまざまな神経伝達物質やホルモンを形成する原材料になるからです。脳の神経伝達物質と受容体のバランスは、気分、感情、認知、知覚および様々な行動の決め手になるといっても過言ではありません。

それでは、食事は犬や猫の行動にどのように影響するのでしょうか?そして、食事で犬や猫の“困った行動”を改善することができるのでしょうか?

もちろん、食事だけで問題を解決することはできませんが、食事の内容が、ストレス、不安、攻撃性などに関連する神経伝達物質にプラスの効果があることが分かっています。

食事の内容を、給餌方法、食餌の量、質の3つに分けてみていきましょう。

給餌方法

自然界で暮らす犬や猫は、獲物を探したり狩ったりすることに多くの時間を費やします。飼い犬や飼い猫は、高品質のドッグフードやキャットフードが簡単に得られ、獲物を探したり狩ったりする必要もないので活動のモチベーションを失い、時間を持て余してしまう可能性があります。暇や退屈を紛らわすためにする行動が”困った行動”になることも少なくありません。

フードやおやつは、問題行動を修正する際に、学習理論に基づいた、馴化、系統的脱感作法(けいとうてきだつかんさほう)、古典的条件付け、オペラント条件付けなどに使われる“ほうび”としての大きな意味を持っています。一日の食事量をしっかり守れば、”望ましい行動”をした時のほうびとして、いつものフードを与えることに全く問題ありません。このようなトレーニングは、飼い主とペットとの信頼関係を強めることにもつながります。

犬のトレーニングはこちらを参考にしてみてください。

また、フードを”パズルフィーダー”や“フードパズル”とよばれる、パズル状の給餌器を使って与える工夫することで、時間を有意義に過ごすことができます。遊び感覚で頭と体を使うことで、早食いを防ぎ、運動量も増えるので太り気味の犬や猫にも理想的です。

猫のパズルフィーダーはこちらを参考にしてみて下さい。

食餌の量~過食や少食

食餌を必要な量以上与え続ければ、犬も猫も理想体重よりも体重が増え、活動量が減り、より太りるという悪循環に陥ります。関節にも負担がかかり、病気にもかかりやすくなります。

反対に食餌を十分に与えなければ血糖値が下がり、刺激に対して敏感になり、イライラして飼い主、あるいは同居している仲間に攻撃的な行動をとることもあります。

猫では、食餌を数回に分けて与える方がよいことをお話ししました。犬でも食餌の回数が1日1回などと少なすぎると、それが1日の適量であっても、1日に2回に分けて食事を与えられた犬に比べ、時間と共に落ち着きがなくなりイライラし、遊びにも興味を示さなくなる傾向にあります。これは、わたし達人間もお腹が空いてくるとイライラするのと同じですね。犬の場合も、少なくとも1日2回、またはそれ以上の頻度で定期的に給餌することが望ましいです。

犬でも猫でも、噛むという欲求が満たされずに、噛んではいけないもの、例えば、犬がテーブルの脚をかじったり、猫が敷物など食べてはいけないものを食べたり(ピカ障害)する問題行動が起こることがあります。

そんな場合、犬には噛む自然なニーズを満たすために、長時間噛めるデンタルケア用の噛むおやつを与えたり、猫にはネコ草や食物繊維が豊富のフードを与えることで改善されることもあります。食餌の回数を増やすことが功を奏することもあります。

食餌の質~成分と栄養補助食品(サプリメント)

食餌の成分

攻撃的な犬

タンパク質

タンパク質の含有量が少ないフードを与えられた犬の方が、攻撃性が低いという研究が最初に発表されたのは1987年のことです。その後も、低タンパク質および/またはトリプトファン添加フードを与えられた犬の方が、自分の所有物や縄ばりを占有したり守ろうとするさいの攻撃性(占有性/なわばり攻撃性)が低くなったという多くの報告があります。

トリプトファンは、タンパク質(肉、魚、大豆など)に多く含まれる必須アミノ酸のひとつで、体内のセロトニンは、トリプトファンから合成されます。脳内のセロトニンは神経伝達物質としてとても重要な役割があり、気分をリラックスさせたり、安定させたりする効果があります。ホルモンではありませんが“幸せホルモン”とも呼ばれ、人でもセロトニンが不足すると、気分が落ち込んだり、不安状態や睡眠障害などになりやすいことが知られています。

トリプトファンが脳に取り込まれ、脳のセロトニンレベルを上昇させるためには、フードに含まれるトリプトファンの量だけでなく、トリプトファン含有量が他のアミノ酸と比べてどれだけ高いかが重要なポイントになります。このため、単純にタンパク質含有量を増やすのではなく、逆にタンパク質含有量を減らし、炭水化物含有量を増やすことで、トリプトファン以外のアミノ酸がインスリン作用で体細胞に取り込まれ、トリプトファンが脳に取り込まれやすくなります。つまり脳のセロトニンレベルが上がります。

また、マグネシウム、ビタミンB6、葉酸は脳内のセロトニン合成を促進し、逆にストレスを受けたときに分泌されるコルチゾールは、セロトニン合成に必要な酵素の分解を促進し、セロトニン合成を阻害します。

それでは、攻撃性(占有性/なわばり性攻撃行動)を示す犬には低タンパク質のフードを与える方がいいのでしょうか?

タンパク質は健康な体をつくり、免疫力を維持するためにも欠かせない栄養素です。フードの種類によってタンパク質の含有量は大きな差があり、タンパク質の要求量は犬の年齢・体型、活動量、健康状態によって変わってきます。また、良質のタンパク質の方が消化吸収率も上がり効率的に使われるので、要求量も少なくてすみます。

これらのことを考慮した上で、もし、飼い犬が占有性/なわばり攻撃性を示し、高タンパク質(乾燥重量あたり28%以上)のフードを食べているなら、タンパク質含有量が低めのフード(乾燥重量あたり24%以下)に切り替えて様子をみることをおすすめします。

ちなみに、ペットフードの安全基準を設定するAAFCO(全米飼料検査官協会)が提示する成犬用(維持)ドッグフードの最低タンパク質含有量は18,0%(成長期は22,5%)とされているので、これをクリアする必要があります。

ただし、このタンパク質含有量は水分を除いた乾燥重量あたりのタンパク質含有量です。たとえば、ドッグフードのパッケージに水分10%以下、粗タンパク質22%以上と表記されているとすると、乾燥重量90%(100-10)を100%として粗タンパク質の量を乾燥重量に換算することができます。この場合、乾燥重量あたりのタンパク質はおよそ24%です。(乾燥重量あたりのタンパク質含有量は、パッケージに表記されている粗タンパク質のおよそ1,1倍と考えると簡単ですね。)

炭水化物

炭水化物は穀類、いも類、まめ類に多く含まれ、ペットフードに含まれる炭水化物の主成分は”デンプン”です。デンプンは消化の過程で分解、吸収されてブドウ糖(グルコース)として体のエネルギー源になります。グルコースは脳ののエネルギー源となり、トリプトファンが脳内に取り込まれるのを助けます。

炭水化物の量が少なすぎても、犬はストレスを受けやすくなります。極端な例ですが、肉類と野菜だけを与えられた犬は、エネルギー源が足りずに疲れやすくストレス状態に陥りやすくなります。

脂質

オメガ6脂肪酸とオメガ3脂肪酸との比率が攻撃性に関係しているという研究報告もあります。シェパード犬での調査で、攻撃的な行動が目立つ犬は、目立たない比較グループよりも血漿中のオメガ6脂肪酸とオメガ3脂肪酸との比率が高かった、つまり、オメガ3脂肪酸の濃度が相対的に低かったというものです。ただ、オメガ3脂肪酸の補給が犬の攻撃性を減らすのに役立つかどうかは、さらなる調査が必要です。

栄養補助食品(サプリメント)

アダプティル・エクスプレス錠剤

不安をやわらげたりリラックス効果のあるサプリメントは市場にたくさんありますが、サプリメントの効果は個体によってさまざまです。トリプトファン、L-テアニン、αカソゼピンを成分とする商品や、これらを組み合わせた商品には以下のようなものがあります。

特徴商品
トリプトファン必須アミノ酸のひとつで、セロトニンの前駆体(生成される前の段階の物質)で、脳のセロトニンレベルを上昇させる。チェバ(Ceva)からトリプトファン、L-テアニン、GAB、ビタミンBを配合したアダプティル・エクスプレス錠剤(Adaptil Express)犬用

*これは犬用で動物病院やトリミングに行くなどのごく間近に迫ったストレスに対して、その2時間前に飲ませます。(日本では未発売かもしれません。)

*なおこの他にもチェバから、ストレスを軽減するための商品、犬用鎮静ホルモンDAPを含むアダプティルスプレー・プラグインタイプや首輪が販売されています。

L-テアニン緑茶に含まれるアミノ酸の1種で、興奮性の神経伝達物質であるグルタミン酸をブロックすることで、興奮を抑制する神経伝達物質GABAのレベルを上昇させる。ビルバック (Virbac) からアンキシタン S( Anxitane S)犬・猫用

*環境の変化によるストレス軽減、および人や他の動物を怖がったりする不安状態の改善に、2カ月以上使用することが望まれます。

αカソゼピンミルク由来の天然成分で、脳内のGABA受容体に働きかける。ベトキノール(Vetoquinol)からジルケーン(Zylkene)犬・猫用

*引っ越しや旅行など、予定されている環境の変化に備えて使用する場合は、1-2日前、場合によっては1週間ほど前から飲ませるとよいでしょう。長期にわたり使用する場合は、かかりつけの獣医さんに相談してください。

療法食

  • ロイヤルカナンから、ストレスを軽減したり不安障害を改善する目的で、αカソゼピンとトリプトファンが配合された療法食(Royal Canin Calm 犬用・猫用)が発売されています。(日本では未発売かもしれません。)
  • ヒルズのプリスクリプション・ダイエットから、ストレスが主な原因の一つと言われている特発性膀胱炎のストレスを軽減する目的で、α‐カソゼピンとトルプトファンが配合された猫の特発性膀胱炎に対する療法食C/Dマルチケアコンフォートが販売されています。
犬の認知機能障害で、老化した犬の脳をポートし、認知症の進行を遅らせるのに効果がある食餌療法や栄養補助食品 (サプリメント)はこちらを参考にしてみてください。
さいごに

まずは、栄養バランス、原材料、安全性、嗜好性を考慮しながら、愛犬・愛猫の体に合ったフードを見つけることが大切です。その上で、適切な栄養成分や多くのサプリメントが、ストレス、不安、攻撃性などに関連する神経伝達物質にプラスの効果があること知って、問題行動を改善するための行動療法や環境改善などと併用し、補助的にとり入れるとよいと思います。

なお、療法食やサプリメントは、オンラインで手軽に購入することができますが、薬との併用を避けたほうがいいサプリメントもあるので、かかりつけの獣医さんに相談することをおすすめします。