近年、犬、猫ともに太りすぎの傾向にあります。太りすぎるとなぜ悪いのか?それを知ることは、肥満に関連した病気を予防し、ペットの生活の質を上げることにつながります。
肥満が増えてる現状とその理由
肥満とは、「個体の健康に悪影響を及ぼすほど過剰に脂肪が蓄積された状態」と定義することができます。その結果、人間でも動物でも健康に悪影響を与え、生活の質が低下し寿命が短くなるという報告もあります。
近年、犬、猫ともに太りすぎの傾向にあります。たとえば、1~9のスコアで体形を評価するボディコンディションスコア*(BCS)を用いた米国の調査では、8/9または9/9のスコアを持つ犬の割合が2007年の10%から2018年には19%に増加し、同期間で猫の割合も19%から34%に増加したという結果でした。
*ボディコンディションスコア(BCS)は、動物の体型(痩せすぎ~肥満)を見た目と身体を触った感触で評価する方法で、1~5の5段階、より詳しい1~9の9段階評価が用いられます。1に近づくほど痩せすぎ、9に近づくほど太りすぎとなります。「ボディコンディションスコア犬猫」で検索していただくとBCSの説明や画像を見ることができます。
また、以前は肥満になりやすいのは中型犬から大型犬であったのが、近年小型犬(特に短頭種)の人気が高まっており、最近の研究では、小型犬やトイ・ブリードにも肥満が多く見られることがわかっています。
人間の肥満について考えたとき、肥満の原因は「怠け者だから」「食べ過ぎだから」「自己責任」であるという見解が広くいきわたっています。しかし、体重に影響する遺伝子も200以上わかっており、肥満は複数の危険因子を持つ慢性疾患で、個人のコントロールが及ばないこともあります。同様に、犬や猫の肥満も「飼い主のせい」であると考えられがちですが、犬や猫の肥満も遺伝的要因をはじめさまざまな危険因子が知られています。
以下、最も重要なリスク要因です。
- 成長パターン:人間の子供の場合、将来の肥満リスクは、成長期における急成長など異常な成長パターンが関連しており、猫や犬でも同様の現象が報告されています。
- 遺伝的な影響:たとえば、より肥満が多い犬種として、ラブラドール、ゴールデンレトリバー、パグなどがあげられます。
- 去勢・避妊手術:去勢・避妊手術後、性ホルモンの減少により代謝が落ち身体活動が低下(=エネルギーの消費が低下)します。また、性ホルモンは食欲を抑制する働きもあり、去勢・避妊手術後、食欲が増すこともあります。このため、これまでと同じ食餌量を与えていると摂取カロリーオーバーになって太りやすくなります。適切な食餌量で食事管理をすることが大切になってきます。
- エネルギー代謝に関連する疾患や薬の影響:エネルギー摂取量の増加またはエネルギー消費量の減少によりエネルギーバランスが崩れ、体重が増加しやすくなります。たとえば、副腎皮質機能亢進症、甲状腺機能低下症、筋骨格系疾患による運動量の低下、ステロイドの副作用など。
- ペットの飼い主の要因:人間の食べ物を与えたり、食餌やおやつの与えすぎ、散歩やペットと遊ぶ時間が十分に取れない、ペットの肥満への知識不足や予防医療への関心が低いなど。また、ペットの飼い主は、自分の犬や猫の体型を実際よりもスリムだと思い込んでいることが多いです。その原因としては、体型に対する誤った認識や、常に太り過ぎのペットに囲まれていることによる誤った評価などが考えられます。さらに、メディアによって、あたかも太っていることがかわいいように誤解されている背景もあるでしょう。
肥満に関連した病気
犬や猫の過体重や肥満は、変形性関節症、心臓病、糖尿病、犬の甲状腺機能低下症など数多くの慢性疾患が関連していると考えられています。
2013年にアメリカに850以上あるバンフィールド動物病院を受診したすべての犬と猫の患者のカルテ(合計463000匹以上の猫と2281000匹以上の犬)から、ボディコンディションスコア(1~5の5段階)と肥満との関連が疑われる慢性疾患の割合が調べられました。
その結果、猫の30.3%、犬の26.3%が太りすぎまたは肥満(BCS4または5)と評価され、太り過ぎや肥満の犬や猫は、以下の表が示すように特定の慢性疾患のリスクが高くなっているのがわかります。
ただ、これらの慢性疾患が過体重/肥満になる前に発症した(病気になったから太った?)のか、同時に発症したのか、過体重/肥満後に発症した(太ったから病気になった?)のかを判断することはできません。
疾患 | 猫全体の病気の普及率 (%) | 過体重または肥満で以下の疾患である猫の割合 (%) | 過体重または肥満で以下の疾患でない猫の割合 (%) | 犬全体の病気の普及率 (%) | 過体重または肥満で以下の疾患である犬の割合 (%) | 過体重または肥満で以下の疾患でない犬の割合 (%) |
骨関節炎(変形性関節症) | 0.7 | 41.9 | 30.2 | 3.0 | 50.2 | 25.5 |
心臓病(心筋症/心不全/弁膜症) | 0.1 | 31.8 | 30.3 | 0.3 | 40.6 | 26.3 |
糖尿病 | 0.9 | 54.0 | 30.0 | 0.3 | 54.7 | 26.2 |
甲状腺機能低下症 | —– | —– | —– | 0.6 | 71.0 | 26.0 |
肥満の予防と解決策
犬や猫の肥満が健康に悪影響を及ぼすことはわかりましたが、減量するのはそう簡単ではありません。食べ過ぎ(過剰なエネルギー摂取)をコントロールし、運動不足を改善する(エネルギー消費を増やす)減量ダイエットをはじめても、実はその成功率はあまり高くありません。目標体重に達する前に止めてしまう飼い主さんが多いからです。肥満度が高ければ高いほど、その成功率も低くなります。また、減量に成功しても、その多くが体重を戻してしまいます。減量ダイエットで目標体重に達した後、犬の48%、猫の46%が体重を戻したという最近の研究結果もあります。このため、肥満管理は生涯にわたる課題であり、肥満を予防することが重要になります。
まず、最初のワクチン接種時から成長期、そして成犬・成猫に至るまで、体重を定期的にモニターすることが大切です。犬では、子犬成長曲線(ウォルサム社が提供するパピーグロースチャート)を用いた体重のモニタリングが有効です。これは5万匹の健康な幼犬のデータをもとに科学的に開発され、健康な成長の目安となり、異常な成長パターン(特に肥満のリスクに関連するもの)を迅速に特定し、健康で理想的な体型を維持するのに役立ちます。
性別や様々な犬種に対応できるようになっており、こちらからダウンロードできます。
成犬・成猫になってからは、健康体重を常に比較し、5%以上の差異がある場合は、早めに健康体重に戻すための対策を開始します。
以下、肥満の予防や対策です。
- エネルギー摂取量のコントロール:ペットのライフステージに合わせて、常に栄養バランスのとれた健康的なフードを選びます。場合によっては、獣医師と相談して選択するとよいでしょう。体重が増えてきたら、なるべくタンパク質や繊維の含有量を増やした食餌に切り替え満腹感を向上させたり、水分を加えてドライフードの量を増やしたり(可能なら水分を多く含みエネルギー密度が低いウェットフードに切り替える)して、フードのエネルギー密度を下げます。中には、飼い主へのおねだりが強くて、ついつい追加でフードやおやつをあげてしまう飼い主さんも少なくありませんが、おねだりには応えないようにします。
- 食餌量を正確に量って調節:適切なフードを選んだら、適量を与えることが大切です。1日分の食餌量は面倒でも正確に計量します。とくにドライフードの場合、エネルギー密度が高いため、少量でも大幅な過剰給餌になる可能性があります。計量カップや計量スプーンは簡単で手軽な反面あまり正確ではないので、キッチン用のデジタルスケールなどを使うことをおすすめします(デジタルスケールは1000円ぐらいから購入可能です)。また、メーカーが推奨するフードの参考給餌量は多めに表示されていることもあります。決めた食餌量は最低でも2週間与え、この間に体重が減少した場合は、1日の食餌量を10%増やし、逆に体重が増えた場合は10%減らすなど調節します。その後も定期的に体重を測定し、必要に応じて1日の給餌量を調整します。通常の食事に加えて合間におやつをあげている場合は1日のカロリーの最大10%までにとどめ、それに応じて1日の食餌量を減らしてカロリーを調節しなければなりません。
- 給餌方法と給餌パターン:多くの犬・猫の飼い主は、1日に2回フードを与えています。もちろんライフステージ、体調、個体差にもよるので一概にはいえませんが、太り気味の成犬・成猫には、1日の総量を小分けにして給餌回数を増やす方が効果的です。消化のためのエネルギー消費が増え、空腹時間を減らすことができるからです。猫の飼い主の中には、ドライフードを常時置いておく置き餌をする人も少なくありませんが、この給餌方法は肥満の危険因子であることが知られています。とくに猫が退屈してすることがない場合、退屈しのぎに頻繁に食べるようになり、カロリーの摂りすぎ、つまり太り気味になります。早食い防止用のフードボールやパズル状の給餌器(”パズルフィーダー”や“フードパズル”)を使うと、早食い防止やフードをゆっくり摂取することで、食べ過ぎのリスクを減らし(消化管が生理的な「満腹信号」を送るのに時間がかかるため)、食べる時間を楽しむことができます。
また、犬におやつやフードを与えるときは、ただ与えるのではなくトレーニングの報酬として与えるなど工夫してあげると犬のしつけもできて一石二鳥ですね。
- エネルギー消費量を増やす:犬の場合、少なくとも毎日30分の散歩が推奨されますが、ライフスタイルや犬の健康状態に応じて、飼い主と遊んだり運動する時間をなるべく頻繁に取ることができれば理想的です。室内で飼われていることが多い猫は、例えば、段差のある空間をたくさん作る、猫が安心して隠れることができるスペース、窓から外が見られるような場所を提供するなど快適な空間づくりに努め、少なくとも1日2回以上、10〜15分間は飼い主と遊ぶ時間を持つようにしましょう。
まとめ
人と同じで、太ってから犬や猫のダイエットを始めるのはそう簡単ではありません。肥満になる前に予防することが大切です。成長期に体重の管理をしっかりとはじめ、肥満のリスクを知って、飼い犬や飼い猫が健康で理想的な体型を維持できるように常に心がけたいですね。
参考資料
Komorbiditäten von Übergewicht und Adipositas bei Hunden und Katzen. Vet Focus 24.3 (10/02/2021)
Adipositas bei Kleintieren: neue Herausforderungen, neue Lösungen. Vet Focus 31.3 (24/08/2022)