猫を飼っている方なら、猫が慢性腎臓病や泌尿器系の病気になることが多いことはご存知だと思います。健康維持や病気の予防のためにも猫に十分な水分摂取をしてもらいたいのはやまやまですが、猫の水飲み行動に関してはまだまだ分からないこともたくさんあります。ドイツで行われた調査結果なども含めて、水を与える際の注意点や水を飲んでもらうための対策をご紹介します。
猫は一日にどれぐらいの水が必要?
アフリカの砂漠地帯で暮らしていた猫の祖先(リビアヤマネコ)は、水の少ない環境でも生きていけるように、水分を無駄にせず体内で効率よく利用する能力を備えていました。水をなるべく再吸収して、腎臓は濃縮された少量の尿をつくります。今日のイエネコもこの能力を受け継いでおり、水の摂取量があまり多くないのはこのためです。また、犬と比べて猫は元来、“のどが渇いた”という感覚が鈍いこともわかっています。
平均的な体重(3~5kg)の猫が一日に必要とする水分摂取量は体重1kgあたりおよそ50mlです。(必要水分摂取量は、体重が5kg以上になれば減り、反対に体重が体重が3kg以下になれば増えます。)とは言え、猫の水の摂取量は、個体によっても異なり、水分の損失量や食事の内容および回数によっても変わってきます。
水分の損失量
生理学的には、オシッコ(体重1kgあたり20~40ml)、ウンチ、呼吸などによる水分の損失。なお、猫は犬のように気温の変化にあまり影響されず、唾液と発汗による大きな水分損失はありません。病理学的には下痢、嘔吐、皮膚損傷、糖尿病、慢性腎臓病・・・などによる水分の損失。
食事の内容
自然界で小さな哺乳類や鳥などの獲物を食べる猫は、獲物の体から必要な水分のおよそ70%を摂取します。キャットフードを食べる飼い猫は、フードの種類によって水分摂取量が変わってきます。下のグラフは、体重1kgあたりの水分摂取量をドライフード(水分含有量8%)とウエットフード(水分含有量88%)を食べる場合で比較したものです。ウエットフードを食べる猫は、水を飲まなくても、必要な水分のほとんどをフードから摂取することができます。
キャットフードと水分摂取量を調べた多くの研究では、ドライフードを食べる猫はウエットフードを食べる猫に比べて、全体的に水分摂取量およびオシッコの量が少ないという結果が示されています。
食事の回数
また、水分摂取量は食事の回数にも関連しています。 猫はちょこちょこと何度も食べる習性がありますが、同じように水もちょこちょこと何度も飲む習性があります。食べたら水を飲むことを学習している猫が多いので、食事の回数が多いほど水分摂取量も増える傾向にあります。
ドライフードと腎臓病や尿路結石の関連性は?
水分摂取量が少ないと尿路や腎臓に負担がかかり、慢性腎臓病や泌尿器系の病気(尿路結石、膀胱炎、尿道閉塞など)にかかりやすくなります。
それでは、水分摂取量が少なくなるドライフードは、猫にとってよくないのでしょうか?
キャットフードの水分含有量と、腎臓病や泌尿器系の病気との関連性は研究されてきましたが、ドライフードがこれらの病気の危険因子になるという明らかな根拠は、現在のところありません。
水分摂取量がオシッコの量やオシッコの濃度と必ずしも 相関しているわけではありません。尿の比重(濃度)や尿成分は、フードの水分含有量よりも、尿物質(特にタンパク質とミネラル)含有量の影響を大きく受けます。尿物質が尿量や排泄されるミネラルの量、そして尿のpH値に関与しており、尿結石の形成に影響を及ぼします。
しかし、実際には、猫の水分摂取量が減れば、腎臓にも負担がかかったり尿結石ができやすくなったりするので、ドライフードをメインに食べている猫は、とくに水分を十分に摂っているかどうか注意を払う必要があります。
猫はどんな水が好きなの?
猫は「フードの傍に置いた水は飲みたがらない」とか「動いている水がすき」などとよく言われますが、実際のところどうでしょうか?
およそ550人の猫の飼い主さんを対象に、猫がどんな水を好むのかを調べるためにドイツで行われた最近の調査結果をご紹介します。
ドイツで行われた調査結果
まず、どんな種類のフードを与えているかに関しては、以下の円グラフの通りでした。
全体の猫の飼い主のおよそ3%が、手作りのフードのみ(ほとんどがBARF)を与えており、これも”ウエットフードのみ”に含まれています。フードの種類は、ウエットフードとドライフードの組み合わせが最も多く、全体の75%を占めています。ドライフードのみを与えられている猫の割合はほぼ8%で、年々減る傾向にあります。やはり水分含有量が少ないために、”不健康”と認識する飼い主が増えているようです。
ちなみに日本のペットフード協会の結果(2019年)では、主食としてドライフードが最も人気で(全体の73%)、次にウエットタイプ(14,1%)、半生タイプ(3,2%)と続きます。
調査結果は…
- 90%以上の飼い主は水入れを毎日チェックし、75%以上以上の飼い主が水を毎日替える。
- 多くの家庭(およそ40%)で、水入れはフードのすぐ隣に置かれている。
- 飼い主のおよそ半数は複数の水飲み場を提供しており、複数の水入れが選択できる場合は、フードが置いてある部屋とは別の部屋の水入れが好まれた。
- ほとんどの飼い主は(> 80%)普通の水入れを使い、次に多いのは循環式給水器。両方を併用している家庭では、猫は普通の水入れから頻繁に飲んだ。
- 小さ目(直径15cm以下)の水入れの方が、それより大きなものより好まれた。
- ボールの素材では、セラミック(60%)が最も頻繁に使用され、次にプラスチック(38%)と金属(35%)、素材の好みはとくになかった。
- 多くの猫(ほぼ60%)で、じょうろ、植木鉢、人用の食器などの他の水源からも飲むことが観察された。
- 外に出ることができる猫のおよそ半数は、池、水たまり、または植木鉢など屋外で水を飲むことが観察され、屋内の水飲み場よりも屋外の水飲み場をを好んだ。
- 最も多い水源は水道水。異なる水質(水道水、蒸留水、雨水)を選ばせた場合、猫は水道水を最も好んだが、外に出る猫は雨水も好んで飲んだ。
- およそ44%の猫は、水に触れたりして遊ぶ姿が観察された。
水を与える際の注意点や水を飲んでもらうための対策
水の好みや飲み方は、猫一匹一匹個性的ですが、以下、水を与える際の注意点や水を飲んでもらうための対策をまとめてみました。参考にしてみて下さい。
水や水入れ
- まずは毎日水を替えて、新鮮な水をあげましょう。良質の水道水で十分です。
- 水の温度については、少し温めた水や湯冷ましした水を好む猫がいる一方で、夏場などは、氷を浮かべた水を好んで飲む猫もいます。
- ひげが水入れに触れるのを嫌う猫もいるので、水は水入れのふちぎりぎりまで入れましょう。
- 猫は匂いに非常に敏感なので、人にはわからないかすかな塩素や洗剤のにおいを察知して嫌うこともあります。水入れは熱いお湯でしっかりと洗うだけで十分です。
- 猫は警戒心が強いと同時に好奇心旺盛です。あらゆる水源から水を飲む可能性があります。コーヒー、紅茶、エナジードリンクを入れたカップやグラスを出したままにしてはいけません。また、猫が外に出る場合は、殺虫剤が入った水や凍結防止剤などにアクセスしないように注意が必要です。
- 水入れにもこだわりがある猫が多いので、さまざまな素材(ガラス、アルミ、陶器、プラスチック製)やさまざまなサイズを用意して猫の好みを探しましょう。ひげが触るので小さな水入れを嫌う猫がいる一方で、小さなコップから水を飲むのが好きな猫もいます。
- 猫は本来、餌場から離れた水飲み場を好む傾向があります。水入れはいくつか(少なくとも猫の数+1)用意し、フードボールから少なくとも50cm以上は離します。できれば、猫がよく通る場所やお気に入りの部屋にも置いてあげましょう。床の上ではなく、少し高い位置に置いた水入れを好む猫も多いです。もちろん、水入れはトイレからも十分な距離を置きます。
- 普段から水遊びが好きな猫なら、短いストローなどを水入れに浮かべると、遊びついでに水を飲むことも多くなります。
- 流水好きの猫には、循環式給水器が喜ばれるかもしれません。猫が気に入ってくれるかどうかは個体差があるので試してみるしかないですが、簡単に手作りすることもできます。こちらも参考にしてみて下さい。
水の味付けやフードの工夫
- ドライフードがメインの猫なら、ウエットタイプの総合栄養食も取り入れることで水分摂取量が増えます。ウエットフードに少し水を加えてもよいでしょう。
- 猫の好みに応じて、一日の食餌のカロリーの10%程度をささみをゆでたものやサバ缶などに置き換えます。
- 猫の好みに応じて、水にささみのゆで汁、カツオのだし汁、ツナ缶の汁などを加えて、水の嗜好性を高めます。
- 猫が好むなら、液状のおやつ、あるいは少量のミルクやヨーグルトをおやつにとり入れます。
- 夏場なら、製氷皿に猫の好きなウエットフードや液状のおやつを凍らせて、水入れに1つ浮かべてもよいでしょう。
- 食事の回数を増やすと水を飲む回数も増える傾向にあります。
さいごに
結局のところ、どんな水が好きか、どんな水入れを好むのか、どこで水をよく飲んでいるのか・・・猫を日頃から注意深く観察して、愛猫の好みを探り出すのがいちばんです。猫があまり水を飲んでないようなら、いろいろ工夫を凝らしてみてください。寒くなって飲水量が減るこれからの季節は特に気をつけてあげたいですね。