シニア猫の食事について気をつけるべきポイントを獣医師が解説

シニア猫

猫のおよそ20~40%が11歳以上の “シニア “や “スーパーシニア “であるとも言われる現在、シニア猫の栄養に関する研究もたくさんされていますが、個々の猫によって必要な栄養も異なるので具体的なガイドラインはありません。食事の3大要素のタンパク質、脂質、炭水化物、その他にミネラルとビタミンで、とくにシニア期にはいった猫にとって気をつけるべきポイントをみていきましょう。

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猫のライフステージ

猫のライフステージ

(出典:https://www.catcare4life.org/cat-owners/advice/?per_page=12)

猫のライフステージの定義は、団体によって多少異なりますが、国際猫医学会(International Society of Feline Medicine:ISFM)では、“子猫”(生後~6ヶ月)、”ジュニア”(7ヶ月~2年)、“成猫”(3~6年)、“成熟した成猫”(7~10年)、“シニア”(11~14年)、“スーパーシニア”(15年以上)に分類されています。

シニア猫の栄養

猫にとってもっとも重要な栄養素であるタンパク質と脂肪ですが、猫も年を取ると栄養の消化機能が徐々に低下し、12歳ごろから脂肪の、14歳ごろからタンパク質の消化率が低下してくることが分かっています。また、“健康な猫”でも“不健康な猫”でも、シニア猫における体重の減少は、少なくとも部分的に栄養素の消化率の低下によるものである可能性があります。さらに、年齢とともに筋肉量の低下がみられる猫も多いですが、これもタンパク質の消化率が低下していることが一因であると考えられています。体重減少には、嗅覚や味覚の衰えもありますが、例えば痛み、代謝障害(慢性腎臓病や炎症性疾患など)、薬物投与(食べ物の味覚に直接影響を与える化学療法薬など)などが、食欲の低下や食べ物への興味の低下になっていることもあります。このようなことから、シニア猫では、たとえ健康であっても、体重を維持するために高いカロリー摂取が必要となります。

猫の食欲不振や体重減少の原因や対策についてはこちらを参考にしてみてください。

猫の食欲不振や体重減少~家庭でできる対策を獣医師が解説

なお、愛猫とできるだけ長く一緒に幸せに暮らすために飼い主さんにお伝えしたい、シニア猫の健康管理や病気のケア、別れのとき…などについてこちらの本にまとめています。参考にしていただければ幸いです。

水分

水飲む猫

人と同様で動物も高齢になると、喉の渇きの減少、運動能力の低下、および/または特定の疾患が原因で脱水症になりやすくなります。猫もシニア期にはいれば、明らかな脱水症がない場合でも、水分摂取を促すことが推奨されています。清潔で新鮮、アクセスしやすい飲み水を供給することが重要であることは言うまでもありませんが、ドライフードをメインで食べている猫なら、水分含有量の多いウェットフード(総合栄養食)を併用することで食事の水分補給を改善することもできます。ただ、ウェットフードだけだと1日に必要なエネルギー量を摂取することが難しいことも多いので、ドライフードと上手く組み合わせることで必要なエネルギーを補うことができます。

猫が一日に必要とする水分摂取量や水を飲んでもらうための対策については、こちらを参考にしてみて下さい。

猫の水飲み行動~必要な水分摂取量は?~フードによる違いは?~猫はどんな水が好きなの?

タンパク質

キャットフード

シニア猫ではタンパク質の消化率が低下してくると書きましたが、健康なシニア猫に対して、どの程度の食事のタンパク質を摂取すべきかは明らかになっていません。猫の飼い主さんは、シニア期の猫では慢性腎臓病が多いことはご存知のことと思います。実際、10歳以上の猫のおよそ30%が慢性腎臓病であるとの報告もあります。

一般的に慢性腎臓病と診断された(とくにステージⅡ以上)猫には食事性タンパク質の摂取量を減らすことが推奨されていますが、猫が高齢になったからといって食事中のタンパク質の摂取を早期に制限することで慢性腎臓病の発症率が低下するという報告はありません。とくに痩せ気味のシニア猫では、タンパク質を減らした食事は筋肉量や筋力の低下のリスクをさらに高める可能性があります。低タンパク質の食事は腎疾患のある猫には推奨されていますが、健康なシニア猫に対しての予防としては推奨されていません。

脂肪と脂肪酸

シニア猫では脂肪の消化率も低下していることが多く、脂肪は炭水化物やタンパク質よりも物質1gあたりのカロリーがかなり高いため、カロリーの吸収率低下に直接つながる可能性があります。このため、健康状態に問題がなく、年齢とともに体重が減少し体調が悪くなっている猫には、脂肪含量が高く、とくにタンパク質と炭水化物の消化率が高い食事が推奨されます。

脂肪は脂肪酸の供給源でもあります。脂肪酸には様々な種類がありますが、シニア期の猫には抗炎症作用があるオメガ3系脂肪酸のエイコサペンタエン酸(EPA)とドコサヘキサエン酸(DHA)の摂取が推奨されています。免疫系と認知機能(学習、記憶)向上に関与し、炎症プロセス(変形性関節症や皮膚炎)を軽減し、腎臓病の進行を遅らせるなどの有益な効果があることが報告されています。

炭水化物

炭水化物は猫にとって必須の栄養素ではありませんが、製造上の理由から、ドライフードには炭水化物が多く含まれています。エネルギー必要量を満たし、食事全体のタンパク質と脂肪の含有量のバランスをとる上で重要な役割を果たしています。健康なシニア猫では、食事の炭水化物はそれほど重視されず、タンパク質と脂肪の含有量に合わせて調整されることが多いです。ただ、糖尿病の猫は食事中の消化性炭水化物をコントロールする必要があります。また、猫が消化しやすく吸収のよい加熱炭水化物は、タンパク質に依存しないグルコース供給源となるため、腎臓病の猫にはタンパク質を制限する効果があります。

食物繊維は消化管の健康を促進する働きもありますが、食餌のカロリー密度を低下させ、嗜好性にも影響するため、個々の猫に合わせてこれらの栄養素のバランスを調整することが重要です。

ミネラル(リンとカルシウム)

シニア猫では、とくにリンとカルシウムの量が重要です。高タンパク食それ自体が猫の慢性腎臓病の原因になるという明らかな証拠はありませんが、高リン食が猫の腎臓病の発症に関与している可能性があるという報告があります。最近の研究で、健康な猫において、リンの含有量とカルシウムとリンの比率が異なるフードを与えたところ、リンの含有量が最も高く(そのほとんどは無機リン)カルシウム/リンの比率が低いフードが、猫の腎臓に変化を引き起こすことが判明しました。

リンは多くの代謝プロセスに不可欠なミネラルですが、食材にもともと含まれている”有機リン”と食品添加物に使われる”無機リン”の2種類があり、リンの質は天然由来のものであるかどうかにも左右されます。骨などの天然由来のものであれば、いわゆる無機質のリンを添加したものよりも過剰摂取の問題はずっと少なくなります。ただ、メーカーが何を添加したかの情報を入手するのは、残念ながら容易ではありません。

この2つのミネラルは、バランスを取りながら骨の代謝と歯の形成に重要な役割を果たしているので、絶対値よりも比率が重要になってきます。現在、カルシウムとリンの理想的な比率は、1.1:1  ~1.3: 1と考えられています。

猫の慢性腎臓病には、無機リンを多く含んだり、カルシウムとリンの比率が低い(例えば1:1未満)フードは避けることが推奨されます。ただ、タンパク質含量と有機リン含量は密接に関連しており、言い換えれば、一方の含量が高ければ高いほど、他方の含量も高くなります。腎臓病の療法食では、慎重に原材料を選択しているため、タンパク質とリンの問題が発生する可能性は低いですが、高齢猫用の通常のフードで、リン濃度が高くなるのを避けながら、タンパク質含有量を高く維持するのは難しいということになります。

ビタミン

シニア期に入ると、脂肪消化能力の低下により、脂溶性ビタミンの吸収が悪くなる可能性があります。これまでのところ、吸収能力の低下が原因でこれらのビタミンが欠乏するというデータはありませんが、体や筋肉の状態が低下している猫が、バランスの取れていないフードを摂取している場合は、これらのビタミンが欠乏する可能性もあります。

ビタミンC、ビタミンE、ベータカロチンなどのビタミン類の抗酸化物質は、シニア猫にとって免疫力を保つ上でもとても重要です。ビタミンCは猫にとって必須栄養素ではありませんが(体内で合成)、ビタミンEとベータカロチンの食事中濃度が高いほど猫の寿命が延びるという研究結果もあります。

さいごに

シニア期に入ってからではなく、すべての年齢の猫に、必要な栄養素がバランスよく配合されている食事が必要であることは言うまでもありません。年齢・体重だけではなく、ボディコンディションスコア、筋肉コンディションスコアを評価して、必要に応じて摂取カロリーを調整して、最適なボディコンディションを維持することができれば理想的です。

とは言え、猫も10歳を超えたあたりから、加齢にともなう病気(慢性腎臓病、変形性関節症、糖尿病、甲状腺機能亢進症など)になることも多くなります。とくに猫では、病気が進行してから症状がでることも少なくありません。シニア猫の食事では、加齢に関連する疾患の進行を遅らせたり予防したりするのに役立つ栄養素を考慮することが大切になってきます。

猫の高齢化が進む近年、多くのペットフードメーカーが「シニア猫用」「~歳からの」と表示されたキャットフードやサプリメントを提供しています。これらの表示に特別な規定はなく、あくまでも成猫用のフードの基準を満たしたフードで、メーカーによって大きな違いがあります。フードのパッケージのキャッチフレーズなどにとらわれず、記載されている成分や原材料名、代謝エネルギーを一度チェックし、ペットフードメーカーのサイトでさまざまなキャットフードを比較してみることも大切です。