問題行動事例~ひとりで留守番ができない犬~行動学専門獣医師が解説

これまでにご相談いただいた事例をご紹介していきます。今回はひとりで留守番ができない犬のケースです。個々のケースによって対策は違ってきますが、同様の悩みを抱えておられる飼い主さんのご参考になれば幸いです。

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問題の概要

ペットの種類:

犬(ポメラニアン)、ジミー君、2歳オス、去勢済、3ヶ月の時にブリーダーから入手。他の犬や人に対してもフレンドリー。

飼い主:

ひとり住まいの30代女性で現在週5日間6時間勤務。

困っている問題:

5カ月前に仕事の都合で引っ越し。以前は実家の近くでひとり暮らしをしており高齢の猫も飼っていた。遠距離の引っ越しにともない猫は実家に預け、ジミー君との暮らしが始まる。引っ越してから、初めて4時間ほど留守番させてから、吠える、ドアをひっかくなどの行動が始まる。吠えに関しては、隣人から報告された。飼い主が帰ってくると飼い主に飛びつき興奮が収まるまでに数分かかる。家の中では、飼い主の後を追うことが多くなる。

診断

軽度の分離不安

以前は長時間でも問題なく留守番できていたそうで、大きな生活環境の変化(引っ越し、飼い主の生活時間の変化、同居していた猫がいなくなるなど)が引き金となり、ひとりでいることに不安を覚えるようになったと考えられます。

また、引っ越し時期に飼い主が休暇をとっていたため、ジミー君が慣れるまで長時間一緒に過ごしており、休暇後、普段の生活に戻り、ひとりになる時間が急に増えたことも一要因だと考えられます。

ただ、飼い主さんがいなくても隣人など誰かが家にいれば、犬は吠えずに遊んだりおやつを食べたりするので、不安レベルはそれほど高くありません。

分離不安の症状(おもに吠える、物を壊す、落ち着きがない、家の中で排泄するなど)は、飼い主がいなくなってから30分以内に見られることが多いので、ビデオに撮って犬の様子を観察することをおすすめします。「飼い主の不在」が直接の原因ではなく、「飼い主が不在中の嫌な出来事」例えば何らかの「音」に過剰反応していたり、ただ「退屈」で吠えたりいたずらで物を壊したりしていることもあるからです。実際、分離不安の犬は音に対して敏感で音を怖がることが多いという報告もあります。

不安レベルが高い場合は、よだれが出たり飲み水やフードにも一切口をつけないことが多く、下痢や嘔吐、自傷行為(足やシッポを噛む、舐め続けるような行動)などの症状があらわれることもあります。

対策

犬に「飼い主は出かけてもすぐに帰ってくるし、静かに待っていればごほうびももらえ、良いことがある」と学習してもらうようにトレーニングしていきます。まずは、飼い主さんへの過度の依存を緩和し、距離が保てるように”飼い主と距離を取るトレーニング”を始め、距離が保てるようになったら、留守中の不安やストレス状態を徐々に緩和していくようにトレーニングしていきます。トレーニングを始めたら、犬を不安な気持ちにさせないように(勤務先に連れて行く、家族・友人、あるいはペットシッターにい願いするなどして)極力ひとりで留守番をさせることは避けます。(この方は勤務先に犬を連れて行くことができました。)

トレーニングの基本は、系統的脱感作拮抗条件づけ(逆条件づけ)の組み合わせです。

系統的脱感作⇒不安を感じる刺激に徐々に慣らしていくために、刺激の強さを不安を感じない程度の強さから、時間をかけて徐々に高め、最終的には反応を起こしていた刺激に反応が起こらないようにする方法。拮抗条件づけ⇒不安を引き起こす刺激と好ましいこと(たとえばおやつやおもちゃ)を組み合わせ、これを何度も繰り返し、不安を引き起こす刺激をうれしい感情に条件づけていく方法。

飼い主と距離を取るトレーニング

  • 「フセ」「マテ」のコマンドの練習を毎日何度も練習。その時間・距離を徐々に延ばしていき、飼い主が部屋を出で視野から消えてもリラックスして待てるように練習。(はじめはドアを開けておき、リラックスできればドアを閉める)。
トレーニングはこちらを参照してください。
  • 飼い主は犬が関心を引こうとする行動には応えず、常に主導権を握る。
  • コマンドトレーニングで、コマンドの数を増やしていくことはもちろん、学んだコマンドを日常生活に取り入れる。たとえば、フードをあげる時、遊んであげる時、なでる時、散歩に行く時など、犬にとってうれしい出来事をする際、できるコマンドを一度だけ与える。
  • コマンドトレーニングとともに物を探したり持ってくるなどの遊びをたくさん取り入れる。

留守番トレーニング

  • まずは、外出の一連の動作(ジャケットを着る-鍵をもつーバッグを持つー靴を履く-ドアまでいく-ドアを開けてしめる…)の中で、犬が不安になる動作があれば、その動作に対してリラックスできるようにトレーニング(例えば、鍵を持ってまた置く、ジャケットを着たりバッグを持ったまま座りテレビを見る、ドアノブをもったり、ドアを少しだけ開けたり閉めたりする…などを繰り返すなど)。
  • 実際に外出する練習。留守番の練習は、まずは数秒からはじめ、徐々に数分ずつ外出時間を延ばしていく(毎日5分程度を最低でも3回)。
  • 犬が不安な反応を示したら前のステップ(留守番時間を短くする)に戻る。
  • カメラを設置して、ビデオで様子を観察。

出かける前

  • これまでの散歩(1回30分程度を朝夕2回)の時間を1回30分から1時間に延ばし、留守番時前に運動量を増やすことで心身ともにエネルギー発散。
  • 出かける際は、静かに軽く頭を撫でてあげたり、「すぐに戻るよ」など簡単な声かけのみで大げさな挨拶はなし。(犬を完全に無視する必要はありません。)
  • 犬が安心できる場所を整える。
狭い場所(クレートなど)の方が落ち着く犬もいますが、事前にしっかりトレーニングができていないと逃げようとして怪我をすることもあるので、個々の犬に合った対策が必要です。例えば、ベビーゲートなどで仕切りをし、犬にとって安全で快適な部屋を用意するなどです。
  • 留守番時直前にフードを家の中に隠したり、おやつを中に入れられる市販の知育玩具(コングやノーズワークマットなど)や犬の好きな噛むおもちゃなどを与える。
コングは中が空洞になっていて、中におやつやフードを詰めることができ、硬さやサイズを選ぶことができます。噛むことでストレスや退屈を防ぎ、長時間集中することができます。ひもを付けてどこかに固定したり、暑い時期だと、水でふやかしたドライフードやペースト状のおやつを冷凍庫で凍らせておくのもグッドアイデアです。
  • 場合によっては、ラジオをつけていったり、犬のリラックス音楽を流しておくと落ち着き効果がある。(YouTubeで、犬リラックス音楽、dog relax musicなどで検索するとたくさん見つかるので、効果がありそうな音楽を試してみるといいですね。)

帰宅時

  • 帰って来た時も、犬に注意を払わず興奮状態が収まり静かになったら声をかけたり撫でてあげる。
  • 留守時に与えていたおもちゃなどは、帰宅したらすぐに犬の手の届かない場所にしまう。
  • 最低でも8週間は続ける。60分間留守番ができるようになれば、30分単位で時間を延ばしていき、90分間留守番ができるようになれば、それ以上の留守番も可能。

その他

  • 毎日のトレーニングの様子(出来たこと、出来なかったこと)を簡単にメモする。
  • サプリメント”ジルケーン”の服用。ジルケーンの主成分であるα-カソゼビンは牛乳に含まれるタンパク質のカゼインをトリプシン加水分解したペプチドで、不安をやわらげる鎮静作用がある。
  • ストレス軽減のために、アダプティル DAP”拡散器の使用。アダプティルは、母犬の乳腺近くの皮脂腺から分泌されている子犬を安心させる作用のある「犬鎮静フェロモン」を利用して作られた、犬の乳腺フェロモン類緑化化合物配合が成分で、犬を落ち着かせる作用がある。
    サプリメントやフェロモンは、トレーニング中のストレスを軽減することでトレーニングを効果的に進めることが目的で、分離不安の解決策ではありません。
サプリメントや薬物治療についてはこちらも参考にしてください。

さいごに

本当に分離不安であるのかを見極めて、飼い主さんが根気よく時間をかけて愛犬と一緒にトレーニングしていくことが重要なポイントです。分離不安が長期におよんでいたり症状が重い場合は、抗うつ剤などの薬物療法を補助的に併用し不安を緩和することで、トレーニングが円滑に進むこともあるので、専門の獣医師に相談してください。