飼い主に攻撃的な猫への対処法~問題行動学専門獣医師が解説

咬む猫

飼い主をふくむ人への攻撃は、猫に多い問題行動のひとつです。とくに社会化の時期に人とのコンタクトが不十分だった猫、早期離乳で母猫や兄弟猫との交流があまりなかった猫、ペットショップから入手した猫などにこの傾向が多いようです。しかし、これまで問題なく仲良く暮らしてきた猫が突然凶暴になることもあります。

原因や状況にかかわらず、猫の攻撃行動は、猫の生活の質を低下させ猫と飼い主との関係を悪化させるだけでなく、人が引っかかれたり咬まれたりしてケガをするという深刻なリスクを抱えています。

猫が飼い主(人)になぜ攻撃性を示すのか、そしてどんな対処法があるのかをまとめてみました。飼い猫の攻撃行動に悩んでいる飼い主さんは、参考にしてみてください。

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身体的疾患

まずは、攻撃的な行動の原因となるような健康上の問題がないかどうかを動物病院でチェックしてもらうことが大切です。体のどこかに痛みがあれば猫の行動に変化がみられ、痛い箇所に触れられれば威嚇したり攻撃的な態度を示すのは当然です。とくに猫が急に攻撃的になったときに考えられる病気は・・・

  • 痛みをともなう病気:例えば、関節炎、耳炎、傷、間質性膀胱炎など
  • ホルモン異常:例えば、甲状腺機能亢進症
  • 中枢神経を侵す病気:中枢神経を侵す感染症、腫瘍、てんかん発作、知覚過敏症など
  • 代謝障害の病気:例えば、肝機能障害

などです。

攻撃行動の種類

身体的疾患の可能性をクリアした上で、考えられる攻撃行動の種類は大きく以下の4つに分類されます。

人に向けられた捕食行動

狙う猫

“捕食行動”といっても、人の手や足を食べたいわけではなく、動いているものを見るとついつい捕まえたくなってしまう猫の狩猟本能から起こる行動です。攻撃は、通常人の動きによって引き起こされ、多くは人の手・足を狙って跳びかかったりします。ベッドの下などに隠れて、人が通るのを待ち伏せする猫もいます。このような“遊びの攻撃性”は、子猫や3歳以下の猫に多く見られます。“狩り遊び”をするとき、猫は低い姿勢で様子をうかがい、おしりや尻尾を振ったりして跳びかかるタイミングを測ります。ひげは前方を向き瞳孔が広がります。

早期離乳した猫や、社会環境に適応しやすい社会化期とよばれる時期(生後2週目から9週目まで)に母猫や兄弟猫と交流があまりなかった子猫は、遊びが激しすぎる猫に育ってしまう可能性があります。この大切な時期に母猫や兄弟猫と喧嘩ごっこや狩りごっこを通して、どれくらいの強さなら咬んでも大丈夫なのかなどのルールを学ぶことができなかったからです。

また、一日中誰もいないような退屈な環境、飼い主の荒っぽい遊びがこの行動に拍車をかけていることも少なくありません。

防御性攻撃(怖いから攻撃)

威嚇する猫

社会化期に人との接触がなかったり、あっても体罰や人とのネガティブな経験がある猫は、人間を怖がり、飼い主を威嚇したり攻撃することもあります。脅威を感じたとき猫はまず、逃げて隠れようとしますが、それができない場合は防御性攻撃を示すことがあります。

猫の防御的なポーズは、頭を引き四肢をまげて体を低くし、しっぽは丸めて体の下にしまいこみ、耳を平らに寝かせ(イカ耳)、なるべく体を小さく見せようとします。逃げ場がなければ、しっぽや背の毛を逆立て精一杯体を大きく見せ威嚇ポーズをとります。瞳孔が大きくなり、威嚇の「ハーッ」やうなり声を発することもあります。威嚇ポーズは、逃げか攻撃か、その状況によって微妙に違ってきます。

そんなときは、それ以上猫に近づくのはタブーです。問題が慢性化している場合には、飼い主が近づいたり、飼い主を見ただけで威嚇することがあります。

転嫁攻撃

これまで良好だった猫同士、あるいは猫と飼い主との関係が突然にくずれ、猫が威嚇や攻撃行動を示すことを”転嫁攻撃(てんかこうげき)”と呼びます。これは、猫が自分の手の届かない対象、たとえば、窓のそばをウロウロするノラネコ(=刺激)に対して興奮したり攻撃感を抱き、行き場のないうっぷんや怒りの矛先が、たまたま近くにいた猫や飼い主に向けられることが原因で起こります。攻撃対象を”転嫁”するわけで、まさに”八つ当たり”です。何らかのにおいや大きな音、知らない人の存在が誘因となることも多いです。また、しっぽがドアに挟まったり、踏まれてびっくりしたりして興奮状態になったときなどにも、たまたま近くにいた猫や飼い主にこの転嫁攻撃が起こることがあります。

困ったことに、もともとの“腹が立つ”刺激がなくなった後も、猫や飼い主への威嚇・攻撃行動が続くことがあります。ひどい場合は、同居猫や飼い主を見ただけで興奮して繰り返し攻撃しようとすることもあります。興奮状態が20分程度続く猫もいれば、何日も続く猫もいます。きっかけが何であったのかは特定できないことも少なくありません。

愛撫に誘発される攻撃

咬む猫

すべての猫が人になでられることに寛容なわけではありません。猫によって、体をさわられることに対する許容値に差があります。子猫の時に人とのスキンシップがあまりなかった猫は許容値が低く、猫種によっても差があると考えられています。

猫によっては、最初からなでられるのを嫌がる猫もいれば、気持ちよさそうになでられながら、急に飼い主の手をひっかいたり咬みついたりする猫もいます。急に咬んできたと訴える飼い主さんも多いですが、ほとんどの場合、猫はボディランゲージで止めてほしいというサイン(手をじっと見つめる、耳を平らにする、しっぽを振るなど)を示しています。

“愛撫に誘発される攻撃”が、自分の方が飼い主より強い優位な地位にあり、自分の欲求を満たそうとする“アルファシンドローム”( アルファシンドロームについては賛否両論あります)の一種であると提唱する専門家もいます。これらの猫は、自信に満ちた自己主張の強い気質の持ち主で、かまって欲しくておねだりするのに、なでられている間に叩いたり咬んだりします。すり寄ったり声を出したりして注意を引きつけようとしたかと思うと、次の瞬間には咬みついてきたり、自分の欲求(フードが欲しいなど)がすぐに満たされないとひっかいたり咬みついてくるなどがこれにあたります。

対処法

どのタイプの攻撃的行動でも、まずは一般的な対策を参考に、環境や猫との関係を今一度見直してみることが大切です。それと同時に、猫が攻撃的になっている原因に応じて対処していきます。ただし、原因が不明であったり原因が複数あるケースもあります。

一般的な対策

環境改善

猫にとってより快適な環境づくりに努めます。例えば、高さのあるキャットウォークやジャンプが楽しめるような空間づくり、安心できるお気に入りの場所や隠れ場所をいくつか用意する、外が見える観察場所(出窓や安全なバルコニーなど)を提供するなどです。退屈な環境がストレスやフラストレーションの原因、ひいては攻撃性につながっていることもあります。

フードの与え方を工夫

猫は本来、獲物を追いかけたり、捕らえたり食べたりすることにたくさんのエネルギーを使います。単調になりがちな食事を、猫が頭と体を使い、フードを探しながら食べるようにパズルフィーダーなどを使えば、猫の狩猟本能を満たしたりストレス解消にもつながります。

パズルフィーダーについては、こちらを参考にしてみてください。

猫の食行動に合ったフードの与え方を獣医師が解説~手作りパズルフィーダー

猫と遊ぶ

飼い主と遊ぶ時間は、猫にとって飼い主との絆を深めるだけでなく、エネルギーを発散して心身ともにリフレッシュできる楽しい時間です。毎日、規則的に遊び時間をとり入れ、アクティブに遊んであげることが大切です。

遊び方については、こちらを参考にしてみてください。

飼い主と猫とのよい関係を維持するために罰を避ける

攻撃的な行動を修正するために罰を与える(直接的にたたくなどだけでなく、間接的に水鉄砲で水をかけるなども)ことは、ストレスと攻撃性を増大させるだけでなく、飼い主との関係を悪化させることにつながります

猫にひっかかれたり咬まれたりしたら・・・

気をつけていても、ひっかかれたり咬まれることがあるかもしれません。「痛い!」と言うのはよいですが、首ねっこをつかんだり大騒ぎするのは良策とはいえません。咬まれても、猫を見たり話しかけたり触れたりせずに、落ち着いた態度でその部屋を立ち去ります。できれば、猫の興奮がおさまるまで(20分ぐらい)ひとりで“反省”してもらいます。

もしも猫に咬まれたら、すぐに傷口を水道水で洗い流し(できれば5分以上)、ガーゼなどで覆って、念のため医療機関で治療(抗生物質の投与など)を受けましょう。

人に向けられた捕食行動

問題行動の強化を避け、適切な遊びでエネルギー発散

飼い主が意図せずに猫の攻撃性を強化していることがあります。動いているものを見るとついつい捕えたくなるのが猫の性です。

飼い主の体の動きが猫の行動の引き金になることが多いので、じっとしていることで攻撃を止めることができたり、少なくとも攻撃性の強さを抑えることができます。日頃から狩猟本能をくすぐるような急な動きはなるべく避け、ゆっくりとした動作を心がけます。

また、日頃から手や足を使って猫と遊んだり“追いかけっこやかくれんぼ”してあそんでいると、猫はこれを“ハンティングゲーム”として楽しんでいることがあります。人の手や足を使って遊ぶことは避け、1日に2回(1回15程度)は規則的に遊び時間をとり入れ、距離を取りながらアクティブに遊んであげることが大切です。

予防

猫が“襲ってきそうな場面”を予測しておきます。例えば、夜寝るときに布団の中の飼い主の足を咬もうとするなら、寝る30分前にしっかりと遊んであげます。お風呂から出てくるときに待ち伏せされるなら、バスルームから出てくるときに気をそらすためのおもちゃを用意しておきます。跳びつかれそうになったら、丸めた紙やお気に入りのおもちゃを投げて気をそらし、その後おもちゃで5~10分ほど遊んであげます。

場合によっては、飼い主が適切な衣服(厚めの服や手袋など)で防備しておくのも一案です。

猫が一匹で飼われている場合は、エネルギーレベルが似ている新しい猫を迎えることで攻撃性が低くなることもあります。猫が2匹以上いる家庭では、人間に対する攻撃的な行動は、単独で飼われている猫の家庭よりも少ないことが分かっているからです。

と言っても、新しい猫を迎えることは飼い主の住環境や生活スタイルなどを考慮した上で家族全員で慎重に検討しなければなりません。

多頭飼いのメリットやデメリットについては、こちらを参考にしてみてください。

猫の多頭飼いのメリット・デメリット~猫は2匹以上で飼われる方が幸せか?獣医師が解説

防御性攻撃(怖いから攻撃)

猫とのコンタクトは最小限にとどめ、飼い主に慣れてもらうように少しずつトレーニング

猫を興奮させないために、まずは(怖がっている)人とのコンタクトを強要しないことが大切です。

そばに人がいるだけでストレスを感じてパニックになったりする猫もいれば、物理的なコンタクトがあった場合にのみ、攻撃的な反応を示す猫もいます。それぞれの状況に合わせて、猫に少しずつ慣れていってもらうようにトレーニングしていきます。

例えば、飼い主が床に座って(リラックスして)自分から少し離れたところにおやつ(好きなおやつやドライフード)を投げます。次に、おやつを少しずつ近いところに投げるといった具合です。最後のおやつは、少し遠くに投げて猫が安全ゾーンに戻るようにして終えます。

この練習を何日か繰り返して、猫との距離を少しずつ縮めていきます。飼主も猫もリラックスしていることが大切です。次のステップでは、猫に直接触れることに慣れるようにトレーニングしていきます。

このようなトレーニングで行動を修正していく上で最も大切なことは、猫の感情を変えていくことです。無理矢理行動を修正してもネガティブな感情のままでは、問題を解決したことにはなりません。時間と根気、そして愛情が必要です。

学習理論を利用して、不安、ストレス、恐れなどを引き起こす刺激(この場合は人)と好ましいこと(たとえばおいしいおやつ)の組み合わせを何度も繰り返し、ネガティブな感情がポジティブな感情に変わるように条件づけていきます。

学習理論については、こちらを参考にしてみてください。

転嫁攻撃

猫が攻撃性を示す原因が特定できる場合はそれを極力避ける

攻撃性を示すきっかけになる刺激がわかっている場合は、可能な限り取り除きます。例えば、刺激が窓から見えるノラ猫であれば、窓からノラ猫が見えないようにするなど比較的簡単にできることもあります。ただ、刺激となる原因がいつもはっきりしているわけではありません。

猫との良好な関係を再構築する

これまで仲良く暮らしてきた猫が、急に家族の一員に転嫁攻撃を示す場合は、威嚇・攻撃性が習慣化しないように、猫が興奮しない程度の距離を保ちます。場合によっては、興奮状態が何時間も、数日にもわたって維持することがあります。そんなときは、新たな攻撃を受ける危険性が非常に高くなるので、攻撃対象になっている人は猫とのコンタクトはできる限り避けます。

大切なことは、できるだけ威嚇する機会を与えないようにすることです。威嚇や攻撃する回数(嫌な経験)が増えれば増えるほど、その人との関係が悪化し、仲良くなれる可能性が減ってきます。早期に対応することが重要です。

飼い主さん自身がいつ飛びつかれるかと緊張している状態は、猫と安定した信頼関係を築いていく上でも妨げになるので、日頃からリラックスした状態を保つことも大切です。

猫の様子を注観察しながら、落ち着いてきたら「防御性攻撃」の対処法と同様に猫との距離を少しずつ縮めていきます。

愛撫に誘発される攻撃

猫なでる

猫を無理に撫でない~嫌がる前にやめる

このタイプの攻撃性は撫でている最中に起こるので、まず飼い主は猫とのふれ合いの回数と時間を最小限にとどめます。猫が撫でてほしそうにリラックスしているときだけ、飼い主は猫の嫌がる体の部分は(お腹や足など)は避け、猫が好む部分を撫でるようにします。多くの猫は、あごの下、頭から背中にかけて、しっぽの付け根などを撫でられるのが好きです。しばらくの間は(いつもより)短時間にします。

攻撃的な反応の前兆を見極めることも大切です。猫の態度を注意深く観察し、イライラしてきた様子をみせたら(手をじっとみたり、体をねじったり、耳を横に向けたり、尻尾の先を振ったりなど)ゆっくり手を引きます。これは、猫によっても異なるので、飼い主さんは猫が“嫌がるタイミング”を注意深く観察しなければなりません。

咬みつこうとする気持ちが芽生える前にやめることが大切です。咬んでから、手を引くと猫は咬むと(やめてくれる)効果があると間違って学習してしまうからです。

撫でられることがポジティブな経験になるようにトレーニング

「防御性攻撃」の対処法と同様に猫との距離を少しずつ縮めていきます。

学習理論を利用して、嗜好性の高いフードや(舐めるタイプの)おやつなどを用いて、飼い主さんとのふれ合いがネガティブからポジティブな感情に変わるようにトレーニングします。最初は、撫でられることを嫌う部位は避け、撫でている間はおやつなどを舐めさせ、舐め終わる前に撫でるのをやめます。そして、徐々に撫でている時間を長くしていきます。

ブラッシングする時なども同様に、機嫌よくブラッシングさせてくれたら、大好きなおやつをあげるなどして、ほめて、必ず嫌がる前に終了します。

まとめ

まずは、エネルギーを発散するために猫とアクティブに遊んであげることと環境を改善することが、問題解決の重要なポイントになります。そして、日頃からどんな時に猫が威嚇・攻撃しようとするのか、猫の様子をしっかり観察して原因を探っていくことが問題の解決につながります。

原因がわかれば、しっかりと安全確保をしながら、時間と愛情をかけて根気よく対処していきます。

猫がひどく怖がったり、重度の攻撃性を示し問題解決が難しいケースもあります。そんな時は、ひとりで悩まずに専門の獣医師に相談することをおすすめします。行動療法と並行して薬物療法を組み合わせることで問題が解決することもあります。