現在ドイツで行われている新型コロナウイルスの探知犬プロジェクトを簡単にご紹介します。
犬の嗅覚
犬の嗅覚は人間の嗅覚よりはるかに優れています。犬の嗅覚受容体細胞は、人間の500〜800万個に比べて2〜3億個と40倍も多く、さらに嗅覚システムが加わり、犬は人間の10万倍もの嗅覚を持っていると考えられています。
例えば、オリンピックサイズのプール20個分に相当する5,000万リットルの水の中に、ある液体が一滴落ちただけで、犬はその液体を検知することができるといわれています。
このすぐれた嗅覚を活用して、さまざまな場面で犬が私たち人間をサポートしてくれています。例えば、空港の麻薬探知犬、災害救助犬、また様々な種類のがんや病気(糖尿病の低血糖やてんかんなど)を高い精度で嗅ぎわけるように訓練された犬などが活躍しています。
研究プロジェクト
ドイツのハノーバー大学獣医科では、いくつかの協力パートナーと共同で新型コロナウイルスを探知する犬の研究が進められてきました。
この研究プロジェクトは、まだテスト段階ですが、現在のパンデミックの中でもより多くの文化産業を可能にすることを目的としています。このため、このプロジェクトは「Back to Culture」と名付けられ科学文化省が130万ユーロの資金を提供しています。
まず、2020年の夏に発表された研究の概要です。コロナ感染者のネガティブなサンプルとポジティブなサンプルを使って8匹の犬をトレーニングしました。使用されたのは1,000以上のコロナ感染者のサンプル(尿、唾液、汗などを吸わせたガーゼ)で、ポジティブなサンプルを選んだ場合、おやつとボールのご褒美を与えて、犬はわずか7日間でコロナを嗅ぎわけることを学びました。トレーニング後の探知率は94%という結果でした。
犬はウイルスそのものの匂いを嗅いでいるのではなく、ウイルスに感染した人の細胞が細胞死するという代謝の変化の際の化学反応によってできるウイルス特有の生成物の匂いを嗅ぎわけていると考えられていますが、その物質が何なのかはわかっていません。
ドイツだけではなく、犬がコロナウイルスの感染を嗅ぎわけられることは、世界中の26の研究でも明らかになっています。実際、コロナウイルス探知犬の養成訓練が多くの国で進められており、すでにフィンランドなど各国の空港でコロナ探知犬の試験運用も始まっています。
日常的な場面で
しかし、いくら実験室で犬がコロナウイルスの感染を嗅ぎわけられても、その能力を日常的な場面で活かすことができなければ意味がありません。
本日2021年9月19日の夜、ハノーバーのコンサート会場でコロナ探知犬がはじめてテストされました。
ギルデパークのステージで行われるオープンエアのコンサート入り口で、500人の観客全員のサンプル(腕の汗)が採取され、訓練された5〜6匹のコロナウイルス探知犬がそのにおいを嗅ぎわけるという手順です。それと並行して、全員の抗原迅速検査とPCR検査も行われます。
今後は段階的に、コロナ探知犬を使っての条件の異なるコンサートがいくつか予定されており、最終段階では、1500人の観客を入れマスクや距離を保つことなしにコンサートが行われる予定です。
さいごに
コロナ探知犬の一番の利点は、数秒以内に判断が下されるので、通常の検査よりもはるかに早いということです。今後、効果的かつ信頼性の高い結果が認められれば、通常のテストの代替または追加として、様々な場面で活躍してくれそうです。
一日も早く通常の日常生活に戻れる日が来てほしいですね。
参考:
Scent dog identification of samples from COVID-19 patients – a pilot study. BMC Infectious Diseases 536 (2020)
https://www1.wdr.de/nachrichten/themen/coronavirus/corona-hunde-spuerhunde-hannover-konzert-100.html