猫に生肉をあげてもいいの?~バーフダイエット(BARF)のメリットとリスク

生肉を食べる猫

ここ数年、ペットに生肉を与える飼い主さんの数が急激に増えているにもかかわらず、生肉を与えることについてはさまざまな情報が飛び交っており専門家の間でも賛否両論あります。犬にくらべて猫のバーフダイエットの情報は少ないので、バーフダイエットについて、獣医として、また猫の1飼い主としての意見などをまとめてみました。猫に生肉を与えようかどうか迷っている飼い主さんは参考にしてみてください。

バーフダイエットとは

BARF(バーフ)とは “Biologically Appropriate Raw Food” (生物学的に適切な生食)、あるいは“Bones and Raw Food”(骨と生食)の頭文字を取ったもので、本来自然界で暮らす犬・猫が食べていたものに近い食餌を意味し、バーフダイエットと呼ばれています。バーフは1990年代に犬のために考案された食餌で、犬に比べると猫のバーフダイエットはまだそれほど浸透していません。

ちなみに、ドイツでバーフダイエットを飼い猫に与える飼い主、およそ180人を対象に行ったアンケートの結果では、バーフダイエットに切り替えた一番の理由は、自然の食餌に近いから体によい(60%)、次に健康上の問題(25%)でした。健康上の問題の中では、食物アレルギーや食物​不耐​症*が半数以上を占め、他には泌尿器疾患、胃腸疾患、皮膚疾患などが挙げられました。バーフダイエットに関する情報の入手先の大多数(86%)は本やインターネットで、ほとんどの飼い主さんはバーフダイエットに切り替えて満足しているという結果でした。

*食物不耐症は​、免疫反応​が引き起こす食物​アレルギー​と違い、​酵素欠乏などが原因の消化​器​系​の反応のことで、特定の​食品をうまく消化することができません。

猫は完全な肉食動物なので、理想的な猫のバーフはPMR(Prey Model Raw diet)とよばれる捕食動物をそのまま丸々食べるモデルや数種類の肉を組み合わせるモデルです。一般的なのはおよそ80%の生肉、10%の骨、5%の肝臓、5%のその他の内臓から全ての栄養素を摂取するモデルです。 このようなモデルでは、ミネラルやビタミンのサプリメントは必要ありません。とは言え、あまり難しく考えずに猫の嗜好や健康状態に応じて、まずは少しの生肉をあげることから気軽に始めていくとよいと思います。

原材料

肉類

100gの様々な肉(参考:日本食品標準成分表)

上のグラフは100gの肉に含まれる、エネルギー、水分、タンパク質、脂質を示したものです。同じ量の肉でも、肉の種類や部位によって、タンパク質、脂質の値に大きな差があるので平均の脂質が10%前後になるように3種類ぐらいの肉を組み合わせ、肉の種類をローテーションすることで栄養素の偏りを防ぐことができます。牛肉などの赤い肉と鶏肉などの白い肉がありますが、50%以上は赤い肉になるのが理想的です。脂身の多い肉は赤肉に比べてタンパク質が少なく脂質が多くなりその分エネルギー値も高くなります。肉屋さんやスーパーマーケットでなどで、自分の目で見て新鮮な肉を選ぶことをおすすめします。

内臓には、肝臓、腎臓、脾臓などの他に、筋肉部分も多い鶏の消化器官(砂肝)や心臓(ハツ)を好む猫も多いので、とり入れると理想的です。肝臓(鶏レバーや牛レバー)はビタミンAや鉄分が豊富で、心臓にはタウリンが豊富に含まれています。

魚には不飽和脂肪酸が多く含まれており、その中でもとくに魚油に多く含まれるオメガ3脂肪酸を摂取するために魚を加えることは大事です。魚に関しては、生肉のうちの5~10%ほどを魚にする、あるいは週に1度魚メインのメニューにするなど、猫の嗜好も考慮して調節します。ただ不飽和脂肪酸は酸化を受けやすいので、抗酸化剤としてのビタミンEが十分に摂取できないとビタミンE不足になり、“黄色脂肪症”という病気を引き起こすことがあります。とくにアジ、イワシ、サバ、サンマなどの青魚の不飽和脂肪酸の過剰な摂りすぎには注意が必要です。

また、生の魚には“チアミナーゼ”という酵素が含まれており、これがビタミンB1を分解するため、ビタミンB1欠乏症を引き起こすことがあります。チアミナーゼはとくに魚の内臓やエラに多く含まれています。チアミナーゼがあまり含まれていない魚は、たとえばマス、サーモン、タラ、アカガレイ、マグロ、ウナギなどです。

魚にはビタミンDが多く含まれているので(とくにサーモン)、ビタミンD摂取過剰にも注意しなければなりません。魚は、フィシュオイルとビタミンEサプリメントで補うことも可能です。なお、アニサキスなどの寄生虫にあうリスクを最小限にするために、魚は一度冷凍(−20℃ で最低でも24時間)します

チキンを食べる猫

肉と骨を食べることでリンとカルシウムとの理想的なバランスが保たれます。(理想的なリンとカルシウムの割合は猫では1:1.1~1:1.3です。)

小さな骨(鶏の手羽先や首骨など)は、個々の猫の大きさや歯の状態にもよりますが、多くの猫は問題なくかみ砕くことができます。しかし、まれに口内のケガや歯の骨折、また骨が消化管につまったり、胃壁・腸壁に突き刺さることもあります。心配なら肉ごとフードプロセッサーやハンドブレンダーで細かくして与えることもできます。

サプリメント

原材料から全ての栄養素を摂取できないこともあります。魚を食べない猫には、魚の代わりにフィッシュオイルを加えたり、骨の代わりにカルシウムパウダーを加えたり、食物繊維を補給するために少量の野菜(ニンジンやカボチャなど)を加えたりなど、個々の猫の嗜好や健康状態に応じて栄養素の偏りや不足を調節する必要があります。不足しがちな必須栄養素の天然素材からのサプリメントには以下のようなものがあります。

ヨード⇒ 海藻パウダー

カルシウム⇒ 卵殻カルシウムパウダー

タウリン⇒ 緑イ貝(ミドリイガイ)パウダー

ビタミンA⇒ レバー

ビタミンB⇒ ビール酵母

ビタミンD⇒ サーモンやフィシュオイル

ビタミンE⇒ 小麦胚芽油

与える量や与え方

与える量

一日に与えるバーフダイエットの量は猫の体型や活動量などに応じて理想体重の2~4%なので、体重4㎏の普通の活動量の猫だと120g前後になります。これを少なくとも2回に分けて与えます。

猫が一日に必要とするエネルギー量(カロリー)は、年齢、活動量や健康状態によっても変わってきます。その計算方法も多数考案されていますが一番簡単なのは、室内で飼われている平均的な体重(3~5kg)の成猫が必要とするエネルギー量を体重1kgあたりおよそ50~55kcalと考える方法です。体重が5kg 以上の猫や活動量の少ない猫では、これを40~50 kcal、反対に体重が3kg以下の猫や活動量の多い猫では55~65kcalほどであると考えます。

体重4kgの活動量が普通の成猫なら、およそ200kcalのエネルギーを食餌から摂取しなければなりません。バーフダイエットだと120g、これは一般的な総合栄養食のドライフードならおよそ60g、ウエットフードならおよそ240gに匹敵します。

生肉とキャットフード  (目安:体重4kgの成猫が一日に食べる半分の量)

これを目安に、たとえば、1日にバーフダイエット4分の1(30g)を与えるとすると、ドライフードなら4分の1の15g、ウエットフードなら4分の1の60gを減らさなければなりません。

与え方

猫は好き嫌いが多い生き物です。まずは、小さく切った少量の生肉を(鶏むね肉・ササミか七面鳥が好まれることが多いです)おやつとして与えてみましょう。もし生肉を好んで食べるようなら、その量を少しずつ増やしていき、いろんな種類の肉や内臓も与えてみましょう。市販の総合栄養食を与えていて、生肉が全食餌量の20%以下なら栄養の偏りを心配する必要はありません。猫の好き嫌いを見極めたり、下痢や消化不良などが起こらないかを確かめるためにも、どんな肉をどれぐらい与えたのかを簡単にメモしておきましょう。また、週に一度は体重チェックも忘れずに!

慣れてきたら一日の食餌のうちの25%、50%・・・をバーフダイエットにするなどと様子を見ながら量を増やしていきます。

骨、内臓を含む肉をフードプロセッサーやハンドブレンダーでミンチにして小分けにして冷凍庫で保存、必要に応じて湯せんや自然解凍して与えるなど、まとめて作れば意外と手間や費用もかかりません。

キャットフードと比べた時のメリットとデメリット

メリット

  • 本来の猫の食餌に最も近い
  • 炭水化物を含まない
  • 原材料がはっきりわかっている(添加物など余計なものが入っていない)
  • アレルギーがある場合に肉の種類を変えることでアレルゲンを特定できる
  • 加熱処理すると失われがちな酵素やビタミンなどをそのまま取り込むことができる
  • 個々の猫のニーズに合わせて調整しやすい(例えばアレルギーや慢性疾患の猫)
  • 肉や骨を噛むことで歯垢や歯石がつきにくい
  • 消化吸収率が良いのでウンチの量やにおいが少ない
  • (ドライフードに比べ)水分不足になりにくい

デメリット

  • 知識がないと栄養が偏ったり不足する
  • 食餌の準備に時間がかかる
  • 骨を与えることによるケガや便秘
  • 災害時に避難するときや猫を預ける時に用意しにくい
  • 衛生上のリスク

衛生上のリスク

生肉にはウイルス、細菌、寄生虫が含まれていることが多いので生肉による感染リスクがあります。猫にとって危険なのは生の豚肉から感染する豚のオーエスキー病(ウイルス感染)です。オーエスキー病に感染した生の豚肉をたべると大半の猫は死に至るため、オーエスキー病が発生する地域では猫に生の豚肉を与えてはいけません。

生肉から大腸菌、サルモネラ、カンピロバクター、エルシニア、リステリアなどの細菌や内部寄生虫(エキノコッカス、サルコシスティスなど)、原虫によるトキソプラズマなどのに感染することもあります。ほとんどの寄生虫やトキソプラズマは肉を冷凍(-17℃~-20℃で1週間以上)することで死滅しますが、細菌は肉を加熱しないと死滅しません。

しかし、人と比べると健康な犬・猫は強い胃酸を持っており消化管も短いため、生肉を食べてこれらの病原体に感染することは稀です。むしろ、犬・猫よりも人への健康リスクを考慮する必要があります。実際そのリスクを警告する報告などもあります。

生肉を扱うときの衛生上のリスクだけではなく、感染していても症状のない犬や猫とのコンタクトから人に感染する可能性があるからです。たとえば、サルモネラに感染した犬や猫から数週間の間、どこかに付着したウンチからサルモネラ菌が人へ経口感染することもあります。

感染のリスクを減らすためには、普段の料理で生肉を扱うときと同様、たとえば、生肉の保管温度に気をつけ、調理器具(まな板、包丁、スポンジなど)や手を清潔に保つ、また、食事前やペットとふれ合った後の手洗いを徹底することが大事です。乳幼児やお年寄り、妊婦や免疫力の弱っている人はより感染しやすいので、これらの人が家にいる場合はとくに注意しなければなりません。

個人的な意見

生肉を与えるリスクをしっかり理解した上で、猫に新鮮な生肉を与えることに問題はないと思います。健康な成猫が生肉を好んで食べるならなおさらです。完全なバーフダイエットにしなくても、あまり細かいことにとらわれず週に一度は生肉を与えるなど、徐々に生肉に慣らしていくとよいのではないでしょうか。実際、生肉を与えるようになってから猫が健康になったと満足している飼い主さんもたくさんいます。ただ、猫の体調のすぐれないときや胃腸疾患や下痢の時は、感染のリスクを避けるため生肉は与えない方がいいでしょう。

わたし自身、全く同じ環境で育った兄弟猫を飼っていますが、一匹は生肉をおいしそうに食べるのに、もう一匹は生肉を全く口にしません。残念ながら、生肉を全く受けつけない猫もいます・・・。猫の食餌の好みを尊重することも大切なので、現在は一匹にだけバーフダイエットを全食餌量の3分の1ほど与えています。今後、バーフダイエットの詳しいレシピなどもご紹介していきたいと思っています。

ただ、非常時や猫を預けたりする時などのために市販のキャットフードも食べられるようにしておく方が安心ですね。