猫の食欲不振や体重減少~家庭でできる対策を獣医師が解説

痩せた猫

近年、犬・猫ともに太りすぎの傾向にあり、それに伴う肥満のリスクや定期的に体重を測定してエネルギー摂取量をコントロールすることが大切であることはお話しました。その一方で、猫の食欲不振や体重減少を心配する飼い主さんもいらっしゃいます。

猫もシニア期(11歳~)に入れば、内臓機能の低下や味覚の衰えで食が細くなり体重が減少する傾向があります。しかし、室内で飼われている成猫は通常、意図的にカロリー摂取を制限しない限り、あるいは病気の発症によって摂取カロリーが制限されない限り、安定した体重を維持するか、ゆっくりと体重を増加させる傾向があります。猫も人と同じで、季節によって食欲がないこともありますが、急な食欲不振や体重減少の背後に何らかの病気が潜んでいる可能性もあります。

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猫が十分なカロリーを摂取しているか

体重減少の原因を探すために、まず猫が十分なカロリーを摂取しているかどうかを確認してみましょう。

実際のカロリー摂取量は、猫が1日に食べているフードの量を一度正確に量り、キャットフードのパッケージに表示されている100gあたりのカロリー(代謝エネルギー)を参考に計算します。例えば、代謝エネルギー100gあたり360kcal/100gと記載されているドライフードを、猫が一日に60g食べていれば、カロリー摂取量は216kcalになります。ウエットフードも同様に計算します。

ちなみに、安定した体重を維持するために実際に必要なカロリーは猫の年齢、性別、活動レベルなどによって異なります。複雑な計算式も考案されていますが、いちばん簡単なのは、去勢・避妊手術をし、室内で飼われている標準体重(3〜5kg)の健康な成猫が必要とするエネルギー量を体重1kg あたりおよそ50〜55kcalと考える方法です。ただ、体重あたり必要なエネルギー量は体重が増えるにつれて減少するので、体重が5kg 以上や活動量の少ない猫では、これを40〜50kcal、反対に体重が3kg以下や活動量の多い猫では55〜65kcalほどと考えます。

猫の体重体重1kgあたりに必要なエネルギー量(kcal)
3kg以下や活動量が多い55〜65
3〜5kg50〜55
5kg以上や活動量が少ない40〜50

健康な成猫が1日に必要なエネルギー

体重減少で考えられる猫の病気

急な体重減少があれば、まず、かかりつけの獣医師に相談してみましょう。その際、体重減少以外にどんな症状(多飲、多尿、下痢、便秘、皮膚の変化、行動の変化…)があるのか、なるべく正確に伝えましょう。ささいな変化に気づいてあげられるのは、猫と日ごろから一緒に暮らす飼い主さんだけです。

カロリー摂取が十分

カロリー摂取が十分であるにもかかわらず、体重減少が起こる、すなわち食欲があり食べているのに痩せることは珍しいですが、考えられる病気に、初期の甲状腺機能亢進症膵外分泌不全腸内寄生虫などが挙げられます。なお、腫瘍性疾患や慢性感染症に伴う症状で、十分な食事量を摂取しているにもかかわらず体重が減る(脂肪や筋肉の減少)ことがありますが、多くの場合は同時に食欲不振をともないます。

考えられる病気 疾患を鑑別診断するためにまず推奨される検査
甲状腺機能亢進症甲状腺ホルモン(T4:サイロキシンとFT4:遊離サイロキシン)の測定
膵外分泌不全トリプシン様免疫活性物質(TLI:Trypsin-Like Immunoreactivity)の測定
腸内寄生虫便の検査

カロリー摂取不足

カロリー摂取不足で体重減少が起こる、すなわち食欲がなく食べないから痩せるのは、ほとんどの病気の症状であるといっても過言ではありません。鑑別診断をするためには、猫の年齢やさまざまな症状を考慮した上で、より広範な検査をする必要があります。

考えられる病気 疾患を鑑別診断するためにまず推奨される検査
歯の問題や口腔不快感食べる様子を観察、鎮静下での口腔の検査
慢性腎臓病SDMAの測定、蛋白尿の定量、超音波検査
膵炎膵特異的リパーゼ活性の測定、超音波検査
炎症性腸疾患(IBD)葉酸およびビタミンB12(コバラミン)の測定、超音波検査
特発性高カルシウム血症イオン化カルシウムおよび副甲状腺ホルモンの測定
腫瘍性疾患や慢性感染症胸部X線写真、腹部超音波検査
心理的ストレス環境や生活リズムの変化があったかどうか

カロリー摂取量を増やすための対処法

検査を進めたうえで原因となる疾患が見つかれば、病状に応じて治療を始めることになります。カロリー摂取量が明らかに最適でない場合は、診断が完了するまでの間、カロリー摂取量の増加を試みる必要があります。食欲不振の原因は様々ですが、フードを変えたりちょっとしたコツが、猫の食べたいという欲求を呼び起こすこともあります。場合によっては、補助的な手段として食欲増進剤の投与をします。

フードを変える

カロリー摂取量を増やすためには、個々のニーズに合わせて、少量でも必要なエネルギーを摂取できるよう、高エネルギーで嗜好性が高いフードを選ぶことが理想的です。加えて、消化管機能障害が疑われる場合は、消化率がよいフードを選ぶことが重要になります。療法食を与える場合は、獣医師の指示に従って与えましょう。

ただ、食べ物の嗜好に関しては、こだわりが強く味にうるさい猫も多く、フードを切り替えるのは難しいこともあります。まず以前の慣れ親しんだフードを1つか2つの新しい選択肢のフード(それぞれの新しいフードを別のボウルで)と一緒に提供し、猫の様子を観察します。猫が好んで食べてくれるフードがみつかった場合でも、新しいフードへの切り替えは一週間ほどかけて行います。そして、猫が1日に食べたフードの量を正確に量り、再度カロリー摂取量を計算してみましょう。

フードの切り替え

 

猫が好む香りの高いタンパク源(マグロ、サーモン、ささみなど)を少量加えることで、嗜好性を高め、食欲を促進することもできます。市販の総合栄養食を与えていて、タンパク源が全食餌量の20%以下なら栄養の偏りを心配する必要はありません。猫が好むなら、短期間(2週間まで)なら自家製フード(手作りごはん、バーフダイエットなど)を与えても大きな問題はありませんが、栄養が偏ったり不足する、病気によっては悪化する原因になることもあるので、長期間与える場合は、獣医師からアドバイスを受けることをおすすめします。

ちょっとしたコツ

以下、食欲を出してもらうためのちょっとしたコツです。猫の健康状態や性格によって効果もさまざまですが、いろいろ試してみましょう。

• 一回に与える量を減らし、回数を増やす

• パズルフィーダーを使う

これらについては、こちらを参考にしてみて下さい。

• フードボールの種類や置き場所を変えてみる

フードボールの素材や大きさ、置き場所を変えると食べだす猫もいます。フードボールを台の上に置いたり、多くの飼い主さんはすでに使っていると思いますが高さのあるフードボールを好む猫も多いです。

• フードを少し温める

少し温かいフードは、冷たいフードよりも単純にいいにおいがして、猫の食欲をそそることがあります。電子レンジで10秒ほど人肌程度に温めたり、冷蔵庫で保存していたフードなら室温に戻したりするだけでも十分です。

• 猫の”大好物”を少しだけトッピング

好きなおやつ(液状、ペースト状、粉状、固形…)を少しだけトッピングしてみます。猫が納得してフードを食べてくれたら、トッピングは時間をかけて減らしていきましょう。

• フードを手やスプーンから与えてみる

手から給餌

フードを手で鼻先まで近づけにおいをかがせたり、鼻先になすりつけたりすると食べだすこともあります。とくに飼い主をとても信頼している猫は、飼い主の手からあるいはスプーンで食べさせてもらうのを好むことも多いです。

• お腹をやさしくマッサージ

猫も私たちと同じように、消化管の調子が悪くて食べる気がしないことがあります。お腹が膨れたり、お腹がゴロゴロしたり、便秘になったりすると、すぐに食欲がなくなってしまいます。猫によっては、お腹を少しマッサージしてあげると、ストレスが軽減されるだけでなく、消化器系の問題も改善されます。

• キャットニップやマタタビを少量使う

キャットニップやマタタビは、成熟した多くの猫に刺激を与える効果があり、舐めたり嚙んだりすると猫は興奮状態になったり酔っぱらったような状態になることがあります。おもちゃなどにふりかけてストレスを解消させたり、フードに少量をふりかけて食欲を増進させる効果もあります。ただ猫によってその効果はさまざまです。

• 食事の時間をストレスフリーにする

猫は繊細な生き物なので、さまざまな要因がストレス、ひいては食欲不振の原因になっていることもあります。食事場所は、トイレの近くやうるさい場所、あるいは他の猫に邪魔されるような場所は避け、落ち着いて食事ができるように工夫します。飼主によくなついている猫なら、飼い主がそばで見守っている方が安心して食べることも多いです。

• 食前に5分ほど遊んでお腹をすかせる

運動すれば少しお腹もすいて食欲も増します。猫と遊ぶ時間は、飼い主と猫との絆を深める大切な時間でもあります。

食欲増進剤の投与

現在、猫に有効な食欲増進剤として多くの国で特別に認可されている薬が2種類あります。

ミルタザピン(Mirtazapine)は、人の医療では抗うつ薬として使用されている薬です。猫でも、神経伝達物質であるノルアドレナリンやセロトニン濃度を上昇させることにより食欲を増進させると考えられています。錠剤の内服薬と耳の内側に塗る外用薬があり、経口投与が苦手な猫では、塗るタイプの薬は投与が楽になるという大きなメリットがあります。副作用として、よく鳴く、興奮、嘔吐などが報告されています。

カプロモレリン(Capromorelin)はグレリン受容体作動薬で、「グレリン」とよばれる空腹になると胃粘膜から血液中に分泌されるホルモンと同じ働きをすることによって食欲が増進されます。猫では、経口液剤として承認されており、副作用として、唾液分泌や嘔吐があり、猫によっては初回投与後に心拍数や血圧が一時的に低下することがあります。

食欲増進剤は、獣医師の指示に従って適切に使用しましょう。

まとめ

定期的に猫の体重測定を行うことは大切で、急な体重の減少がみられたら、その背後に何らかの病気が潜んでいる可能性もあります。検査をして原因となる疾患が見つかれば、その治療を始めることになりますが、同時に食欲不振であれば、家庭でさまざまな手段を試したり、場合によっては、補助的な手段として食欲増進剤の投与も考慮します。とくに慢性腎臓病や腫瘍性疾患では、体重減少が生存期間と関連していることも多いので、食べて体重を維持してもらうことがとても重要です。