なぜ猫は途中で食べるのをやめたりフードを残したりするの?

岩手大学の宮崎雅雄先生の研究グループにより、2026年に発表された論文のご紹介です。

この論文は、猫がフードを残すのは、単に「猫がフードに飽きる」のではなく、猫の食欲が胃の満腹感だけでなく、匂いへの慣れ(嗅覚順応)によって強く制御されていることを明らかに示した研究です。

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実験内容

猫を飼っているとよくある現象があります。勢いよくフードを食べるのに完食せずに途中でやめる。そして、30分後や1時間後にはまた同じフードを食べ始める。もし本当に満腹なら、再び食べるのはおかしいのでは?

そこで研究者たちは、この疑問に対し、猫は満腹だから食べるのをやめるのではなく“同じ匂いに慣れて食欲が下がるのではないか?”と考え次のような実験をしました。

対象は年齢が3~15歳の12頭の健康な成猫です。

実験1:同じフードや違うフードを繰り返し与える

猫を16時間絶食させ、その後、6回の摂食サイクルで10分食べる⇒10分休憩を繰り返し、各回とも全く同じフード、各回とも全く違うフードを与えました。

その結果、各回とも全く同じフードをあたえた場合、食べる量は回を追うごとに減りました。つまり、1回目たくさん食べる、2回目少し減る、3回目さらに減る、4回目もっと減る…というパターンになりました。

対照的に、各回とも全く違うフードをあたえた場合は、摂取量の減少がはるかに少なくなりました。つまり、各回とも全く同じフードをあたえた場合より、たくさん食べました。

実験2最後だけ別の餌を出す

実験1と同様ですが、最初の5回は同じフードで、6回目だけ別のフードを与えました。

すると、6回目で食べる量が再び増えました。

実験3匂いだけ変える

フードそのものは変えずに、6回目だけ、以下のような穴の開いた仕切りで区切られ、上下2層に分かれたフードボールを利用して、別のフードを下に置きました。

(参考資料より)

つまり、猫は別のフードの匂いを嗅げるが、実際には食べられないという状態です。すると、6回目に食べる量が増えました。つまり、食欲が回復したのは、フードの味ではなく匂いの新規性(odor noveltyだったのです。

実験4:同じ匂いを嗅がせ続ける

今度は、休憩時間中も猫に同じフードの匂いをずっと嗅がせました。

すると、次の食事での摂食量はさらに低下しました。つまり、同じ匂いへの曝露が続くほど、食欲低下が進んだということです。

実験5別の匂いを嗅がせる

次に、休憩時間中に、別のフードの匂いを嗅がせました。

すると、摂食量低下が大幅に抑えられました。

実験結論と解釈

同じフードを出し続けた場合、食べる量は回を追うごとに徐々に減少しました。つまり、猫はまだ満腹ではないのに「もういいや」とフードを食べ残しました。同じフードの匂いに対する嗅覚的慣れが、猫の摂食意欲の低下に重要な役割を果たしていることが示唆されます。

一方で、違うフードや違うフードの匂いを出した場合は、摂食量の低下がかなり抑えられました。

研究者たちは、猫は同じフードの匂いに慣れると食欲が低下するが、新しい匂いを与えると再び食べ始めるということを実験的に証明し、猫で嗅覚順応(olfactory habituation脱順応(dishabituationが起きていると考えました。

順応 同じ匂い→慣れる→魅力が下がる→食欲低下

脱順応 新しい匂い→脳が再び注目→食欲回復 という流れです。

野生の猫は本来、1日に何度も小さな獲物を何度も捕まえて食べます。このため飼い猫も一日を通してフードを少量ずつ複数回食べたがる習性があります。匂いへの順応と脱順応を利用して、この行動が形成されているとも考えられます。

猫飼いにとって実用的な意味

猫が食べるのをやめる理由は、満腹感だけではなく、フードの匂いが深く関わっていることが明らかになりました。新しい匂いは、たとえ実際に食べなくても、食欲を一時的に回復させるというのが、この論文の最大の発見です。

この結果は、例えば以下のように食欲不振の猫に応用できそうです。

  • フードローテーション
  • トッピングを少量変える
  • フリーズドライ肉を少量追加
  • ウェットの香りを変える
  • 別フードの香りだけ利用する

逆に、常に同じ匂いを出し続けること

  • 開封後長期間同じフード
  • 常時置き餌で匂いが充満
  • 同じ香りだけを延々経験

などは、嗅覚順応を進め、食欲低下につながる可能性があります。

さいごに

わたしを含め多くの猫の飼い主さんが、猫がごはんを残すようになったときに、違うフードに変えたり、(同じフードでも)新しい袋を開封すると一時的に食べるようになったという経験があるのではないでしょうか?

猫がフードを残すのは、”わがままや飽き性”からではなく、フードの匂いが深く関わっていることが明らかになって、すっきりしましたね。

今後、食事の匂いを適切に管理することで、食欲不振の猫や療法食を食べない猫だけではなく、太りやすい猫や肥満気味の猫の過食を抑えることにも役立てたいですね。

参考資料:Olfactory habituation and dishabituation dynamically regulate feeding motivation in domestic cats. Physiology & Behavior Volume 311,  July 2026