“ドイツで獣医になるにはどうしたらいいですか”というお問い合わせを受けることがよくあります。ドイツの獣医学部について、また外国人がドイツの獣医学部に入る難易度や、わたし自身の経験(随分前の話ですが・・・)なども交えてまとめてみました。興味のある方は参考にしてみて下さい。
獣医学部のある大学
ドイツで獣医学部のある大学は以下の5つです。全て国立大学で、どの大学でもカリキュラムは同じです。なので、もしミュンヘンからベルリンの獣医学部に移りたい場合は、同じセメスターで交換したい学生を見つけて途中で変わることも可能です。
- ミュンヘン (Ludwig-Maximilians-Universität)
- ギーセン (Justus-Liebig-Universität)
- ライプチッヒ (Universität Leipzig)
- ベルリン (Freie Universität Berlin)
- ハノーバー (Tierärztliche Hochschule Hannover)
ドイツの獣医学部は女子学生の数が圧倒的に多く、現在85%以上が女子学生で占められます。ちなみに、ドイツ全体で2018年に獣医学部に入学した学生の数1008人、その内女子学生は945人でした。外国人の学生数は全体の約4~5%程に落ちついています。
授業料が導入された時期もありましたが、現在、授業料は無料で1セメスターにつき学生組合の料金を62ユーロ(7500円ほど)払うだけです。
カリキュラム
カリキュラムは全部で11セメスター(1セメスターは6ヶ月)で構成されており、6ヶ月間の実習や試験期間なども入れて、最短でも5年半(多くは6年間)かかります。授業はほとんど月曜日から金曜日(8:00 ~17:00ごろ)までぎっしり詰まっています。カリキュラムは5段階に区切られ、それぞれ1段階ごと(1年ごと)に試験があります。
- 獣医学前基礎試験(Vorphysikum)⇒ 物理,化学、動物学、植物学の4教科
- 獣医学基礎試験(Physikum)⇒ 生理学、生化学、組織学、解剖学、遺伝学の5教科
- 国家試験3段階(StaatsexamenⅠ、Ⅱ、Ⅲ) ⇒ ウイルス学、細胞学、寄生虫学、薬理学、栄養学、行動学、生殖学、内科、麻酔と外科・・・・・など全20教科
国家試験は実地試験がある科目(内科や外科など)もありますが、ほとんどの試験科目は口述試験です。試験は自分たちでつくった4人のグループごとに行われました。具体的には、試験官(教授)に与えられる問題に対して一人ずつ口頭で答えるという流れです(1問につき10~15分程度)。問題は一人3問与えられるので、与えられた問題に4人が順番に答えていき、これを3回繰り返すことになります。
例えば、”寄生虫学”の試験なら「犬回虫について」「牛肺虫について」「トキソプラズマについて」などといった問題が出され、その病原体の形態や特徴、感染経路、病気の症状、診断方法、予防や治療法など知っていることを述べていきます。自分が答えるときはもちろんですが、同じグループの友人たちが答えているのを聞いているときも、ハラハラドキドキ緊張します。
口述試験の場合は、終わればその場で結果が発表されます。(1=とてもよい、2=よい、3=普通、4=ギリギリ合格、5=不合格)
一人ひとり出される問題も違うし、同じ科目でも試験官によって採点の基準が大きく違うので、個人的にはとても不平等な試験だと思いました。
膨大な試験範囲ですが、これまでに出された問題集なども出回っており、しっかり勉強すればなんとかなります。ただ口頭試験なので、落ち着いて大切なポイントを順序良く説明できるように練習しておく必要があります。緊張してパニックになったり勉強不足で不合格になった科目は、再試験を2度まで受けることができます(3度不合格になったら退学です・・・)。
最初は暗記することも多くやめていく学生もけっこういますが、入学してから2年後の獣医学基礎試験を乗り越えれば臨床・応用獣医学を学ぶことができるので、やめていく学生はほとんどいません。ちなみに2018年に獣医師国家試験を終えた学生はドイツ人883人、外国人33人で、合格者はドイツ人879人(合格率99.5%)、外国人33人(合格率100%)でした。
入学するのに必要なもの3つ
・大学入学資格証明
ドイツ人が大学進学するには、4年制の小学校の後、日本の中学校高校の一貫教育にあたるギムナジウム(8年か9年制)に進学します。そして、卒業時に“アビチュア”という試験を受け、これが“大学入学資格証明”になります。これをもっていればいつでも大学に入学できます。このため、大学に行く前に働いたり長期の旅行をしたりする人も多いので、日本の大学に比べると大学入学時の学生の平均年齢は高いです。人気があり入学者制限がある学科(医学部、法学部、獣医学部・・・)はこのアビチュアの成績順にとられるので、この成績はとても大事です。
日本ですでに短大や大学を卒業している場合は、その成績証明(ドイツ語に認証翻訳されたもの)がアビチュアの成績に換算されるので、大学入学資格証明として認められます。日本の高校を卒業している場合は、条件によっては(大学入試センター試験の結果など)Studienkollegという大学準備コースに1年間通うことが必要な場合もあるようです。それぞれの学科には外国人の枠が設けられているので、もしその年に規定より多くの外国人が獣医学部に入学申請すれば、やはり成績順にとられるのではないかと思います。
・ドイツ語ができるという証明
- TestDaF(Test Deutsch als Fremdsprache)スコアTDN4
- DSH(Deutsche Sprachprüfung für den Hochschulzugang)スコア DSH-2
- telc Deutsch C1 Hochschule
- Goethe-Zertifikat C2
などの中からひとつ
・履歴書
*入学が許可されれば、部屋探し、ビザ申請などさまざまな準備が必要になってきます。
国家試験に合格してから
国家試験に合格すれば晴れて獣医師免許(Approbation)がもらえますが、この免許は、EU圏内の国でのみ有効です。
卒業後専門医になるには、さらに3年から5年の研修を終え試験に合格しなければなりません。小動物専門医、馬専門医、鳥専門医、爬虫類専門医など動物の種類別だけでなく、外科、内科、麻酔、眼科、歯科、皮膚科、心臓科、寄生虫専門、最近では、ホメオパシー、鍼療法、行動学を専門とする獣医もおり、およそ50の専門医の種類があります。
何十年か前までは、ひとりの獣医が何でも屋として、どんな治療もこなそうとしていたのですが、獣医学の進歩とともに、治療法も人と同様多様化され、獣医も専門医を目指す傾向にあります。獣医の間で、自分の専門の分野でない患者(動物)を専門の知識を持った他の獣医に紹介し合うことで、獣医も飼い主も安心、そして何よりも、患者が万全な治療を受けることができます。
さいごに
ドイツで獣医学部に入って学ぶのは、獣医学に対する興味、やる気、根気そして多少の度胸があればそれほど難しくはないかもしれません。授業は全てドイツ語なのでドイツ語ができるかどうかが一番のネックになります。わたしの場合は、獣医学部に入学するまでにすでに何年かドイツにいたので、ある程度のドイツ語はできるようになっていましたが、それでも最初は授業の内容が理解できないこともよくありました・・・。
ただ、ドイツで獣医を目指すなら、ドイツを含めるEU圏内で働くことが前提です。日本で獣医として働くためには、日本の獣医師国家試験に合格しなければなりません。