グレインフリー(穀物不使用)のペットフードは最近とても人気があります。人気があるしなんとなく体によさそうだから・・・と選んでいる飼い主さんも多いのでは?グレインフリーフードが選ばれる理由やその信憑性について、実際どんな犬や猫に適しているのかを考えてみましょう。
グレインフリーとは
グレインフリーの“グレイン”は穀物を意味し、イネ科作物の乾燥種子を指し厳密には以下の3つに分類されます。
このうちペットフードによく使用されているのは、主穀の小麦、コーン、米です。
よく混同される言葉にグルテンがありますが、グルテンとは、小麦、大麦、ライ麦などに含まれているグルテニンとグリアジンからなるタンパク質混合物のことです。
現在グレインフリーのペットフードはたくさんのメーカーから発売されています。フードのパッケージの原材料名は使用料の多い順に記載されているので、いちど確かめてみましょう。グレインフリーのフードは、穀物を含まないかわりにイモ類(ジャガイモ、サツマイモなど)や豆類(エンドウ豆、レンズ豆など)を多く含む傾向があります。原材料名の最初にイモ類や豆類が記載されているグレインフリーのフードは、動物性タンパク質が極端に少ないと考えられます。
グレインフリーのペットフードが選ばれる理由とその信憑性
グレインフリーのペットフードが選ばれる理由に次の3つがあげられます。これらの理由が本当に正しいのかどうかを見ていきましょう。
元々肉食であった祖先(オオカミ・野生の猫)の食生活に近い
グレインフードは穀物を含まないので、元々肉食であった祖先(オオカミ・野生の猫)の食生活に近いフードだから良いと考える方も多いと思います。
犬も猫も3大栄養素と呼ばれるタンパク質、脂肪、炭水化物からエネルギーを摂取します。食餌から体内に吸収されて実際に利用できるエネルギーは代謝可能エネルギー(ME)と呼ばれ、次のグラフは、オオカミ、犬、野生の猫、飼い猫の典型的な3大栄養素から摂取する代謝可能エネルギー(ME)の割合(%)を示したものです。(※犬、飼い猫ではさまざまなドライフードおよびウェットフードから好きなフードを選ばせた結果が示されています。)
オオカミや猫科の肉食動物は草食動物を獲物として捕らえます。たとえばオオカミは大きな草食動物獲物を捕らえるとまず内臓から食べ始め次に骨格筋を食べめます。胃腸内には植物も当然含まれます。野生の猫はげっ歯類に次いでウサギを好み、その他は住む地域によって爬虫類、鳥類および昆虫なども食べます。栄養素の大部分をタンパク質と脂肪から摂取しますが、肝臓や胃腸の内容物などからある程度の炭水化物(3~8%程)も摂取します。
グラフからは、オオカミと犬、野生の猫と飼い猫とを比較すると炭水化物からのエネルギー摂取が増えているのがわかります。犬も猫も家畜化の過程で、食餌の嗜好や消化において変化してきました。
とは言え、家畜化の過程が猫よりもずっと長い犬は、その過程でデンプンを消化できる遺伝子が重要な鍵を握っていることも明らかになっています。つまりオオカミがデンプンの多く含まれた人間の残り物を食べることに適応していったということです。犬を肉食動物と見なしている人もいますが、犬にデンプンを消化できる遺伝子が見つかってからは、犬は雑食動物として分類されています。
炭水化物は消化性が悪く、糖尿病、肥満につながる
犬や猫は炭水化物を消化するのが苦手で、高炭水化物のフードは肥満や糖尿病、アレルギーにもつながると考える方もいるかもしれません。
まず”炭水化物”ですが、炭水化物は穀類、いも類、まめ類に多く含まれ、ペットフードに含まれる炭水化物の主成分は”デンプン”です。デンプンは消化の過程で分解、吸収されてブドウ糖(グルコース)として体のエネルギー源になります。
遺伝子でも証明されたように、犬はデンプンを上手に消化・吸収することができます。猫はどうでしょうか?猫は完全肉食動物で、タンパク質の摂取が十分であれば、本来エネルギー源として炭水化物を必要としません。しかし、最近の研究では、猫もセルロースを除く炭水化物の消化能力がこれまで考えられていた以上に高いことがわかっています。デンプンの消化率は調理することでさらに高くなります。このため、市販のドライキャットフードには、40%近い炭水化物が含まれています。とは言え、猫や犬は体内で合成できないアミノ酸や脂肪酸を動物性タンパク質から摂取しなければなりません。また、猫は人や犬とちがって大量のグルコースを肝臓細胞へ取り込む(貯蔵しておく)ことができません。このため、猫はグルコースをつくるために常にアミノ酸(タンパク質)を必要とし、犬にくらべると高タンパク質のフードを必要とします。
最近、とくに猫の糖尿病が増える傾向にあり、高炭水化物のフードと肥満のリスクや糖尿病との関連性について多くの研究がされています。
今のところ、高炭水化物のフードの長期摂取が糖尿病を引き起こしているというデータはありません。ただし、糖尿病などの血糖値のコントロールには、食後の血糖値が急激に上がるのを防ぐために、低炭水化物・高タンパク質に調整されたフードが適しています。炭水化物が血糖に及ぼす影響は、フードに含まれる炭水化物の量だけではなく、炭水化物の種類によっても変わってきます。たとえば、猫においては、タンパク質分の多い炭水化物(エンドウ豆やレンズ豆など)を含むフードの方が、コーンや米などを含むフードよりも食後の血糖値の変化が少ない傾向があることがわかっています。
なお、低炭水化物のフードは、それを補うために高タンパク・高脂肪です。これは、慢性腎臓病やダイエットが必要な犬や猫には適していないこともあります。とくに肥満に関しては3大栄養素の炭水化物の割合よりも脂肪の割合に気をつける必要があります。
穀物は食物アレルギーを引き起こす
食物アレルギーを防ぐことを目的として、グレインフリーのフードを選ぶ飼い主さんもいます。上のグラフは、犬と猫の食物アレルギーの原因となる食品(アレルゲン)を表したグラフです。ほとんどのアレルゲンは、植物由来ではなく動物由来の食品である肉や乳製品であることがわかります。
人では小麦、大麦、ライ麦などに含まれるグルテンが食物アレルギーの原因になったり、これに過剰反応してしまう病気などもあります。犬でも稀ですが、アイリッシュセッターやボーダーテリアで報告されています。猫ではグルテンの過剰反応は報告は今のところありません。
グレインフリードッグフードと心臓病(DCM)
2018年にアメリカ食品医薬品局(FDA)が、「グレインフリーのドッグフードを食べる犬に拡張型心筋症(DCM)の発症がより多く見られる」と発表しました。このニュースが大きく取り上げられてからインターネット上でもさまざまな情報が飛び交い、不安になった犬の飼い主さんも多いのではないでしょうか。
実はこの時点では、“グレインフリーフード”という言葉ではなく「“エンドウ豆、レンズ豆、その他の豆科植物の種子、ジャガイモなどを主な原材料として含むフード”を食べる犬にDCMの発症が多く見られる」と記載されています。その後の2019年の発表ではこれらのフードの90%以上が”グレインフリー”であること、多かったブランド名までが発表され、グレインフリーのフードがDCMを引き起こしやすいという間違った見解が広がりました。
また、症例のおよそ半数の犬では、血液中の低タウリン濃度が検出されています。タウリンは心筋の収縮に必要不可欠でタウリン欠乏はDCMの原因のひとつと考えられています。犬はメチオニンとシスチンというアミノ酸から体内でタウリンを合成することができ、これらのアミノ酸は動物性タンパク質に多く含まれます。
犬のDCMの根本的な原因は本当にわかっていませんが、遺伝的要素があると考えられています。犬種としては、グレートデーン、ボクサー、アイリッシュウルフハウンド、セントバーナーズ、ドーベルマンピンシャーなどの大型犬、そしてタウリン欠乏症がよく見られる犬種、コッカースパニエルなどが挙げられます。この発表では、DCMを発症した犬種はゴールデンレトリバーが一番多かったのですが、ゴールデンレトリバーが遺伝的にタウリン欠乏症にかかりやすい可能性があることを示唆している研究もあります。
というわけで、現時点では、グレインフリーフードとDCMとの因果関係についてはわかっておらず、今後も調査が続けられます。
結論
今のところ、グレインフリーフードがそうでないフードより優れているという研究結果はありません。
どんなペットフードにもいえることですが、原材料やエネルギー源となる3大栄養素のバランスが大切です。グレインフリーは、イモ類や豆類は炭水化物を多く含むこともあるので、必ずしも低炭水化物のフードを意味するわけではありません。
犬のDCMに関しては、原材料に豆類やポテトが含まれることが危険というわけではなく、やはり全体のバランスが大切です。グレインフリーのフードで動物性タンパク質が極端に少ない(たとえば、原材料の一番目に豆類やポテトが記載されている)フードはおすすめしません。
祖先が食べていた食餌に近いから、血糖値の変動を抑える、消化率を改善する、あるいは食物アレルギーを避けるという目的のためにグレインフリーのフードに替えても、必ずしも効果があるとはいえません。
犬・猫が現在バランスの取れたグレインフリーを好んで食べており、健康状態が保てるならその犬や猫にはグレインフリーのフードが合っているといえます。
参考資料
Getreidefreie Tiernahrung – gut oder schlecht? Vetfocus 28.3 (2018)