10月2日(月曜日)に、ドイツの隣国オーストリアでアメリカン・スタッフォードシャー・テリアがジョギング中の女性を襲い、死亡させるという痛ましい事故がありました。
10月2日に起きた犬の咬傷による死亡事故の概要
死亡事故はリンツ近郊の小さな田舎町で起き、37歳の女性の飼い主がアメリカン・スタッフォードシャー・テリアを散歩させていたときに、突然ジョギング中の60歳の女性に襲いかかりました。女性は無数の咬傷による出血が原因で、救急医が到着したときにはすでに死亡していたそうです。飼主は、犬を引き離そうとしたそうですが、制止できず自身も重傷を負いまだ取り調べを受けていないということです。重過失致死の疑いで起訴されれば、有罪判決が下った場合、飼い主は3年以下の懲役が科されるであろうということです。
この飼い主は、アメリカン・スタッフォードシャー・テリアのブリーダーでもあり、この犬はブリーダーの配偶者の同意と地区当局の命令で、その日の夕方に安楽死させられました。突然の攻撃的な行動を説明できるような病気がなかったかどうか、州の研究所で検査されることになっています。この犬は、ドッグスクールにも通い、気質テストと繁殖のためのテストも受け、これまではなんら問題なかったということです。
なお、飼い主は自主的に残りのアメリカン・スタッフォードシャー・テリア成犬4匹と生後2週間の7匹の子犬を手放すことを決め、火曜日の夕方には全ての犬が引き取られ(おそらく民間の保護施設に)、犬たちは専門家の評価を受けたうえで、様々な民間団体や個人に譲渡されることになっているようです。
オーストリアの3つの州では、アメリカン・スタッフォードシャー・テリアのような潜在的に危険な犬種の飼育には、許可証や犬の免許試験が必要ですが、事故の起きた州(オーバーエスターライヒ州)では、この犬種の飼育に特別な条件は課せられておらず、犬の飼い方について6時間の講習を受けなければならないという決まりがあるだけです。犬はリードにつながれていたようですが、口輪はしていませんでした。この州では現在、この事故を機に、犬種による口輪の着用義務や、犬を飼う前の訓練の拡大などについて、現行の規則を再考することを検討しています。
ドイツバイエルン州の危険性がある犬に関しての条例
犬のしつけがいきとどいていると思われているドイツでも、犬の咬傷による死亡事故が、毎年およそ5件ほど報告されています(2020年は6件、2021年は5件)。
危険性がある犬に関しては「攻撃性および危険性の高い犬に関する条例」というのがあります。これは、ドイツの州の警察管轄によって危険であろうとみなされている犬種に関する規定です。州によって異なり、バイエルン州では公共の場で人や他の動物に危害を与えるおそれのある犬種が、2つのグループに分けて“危険な犬のリスト”に挙げられています。
カテゴリー1は、攻撃性および危険性という闘犬としての特性が備わっている、すなわち、闘犬とみなされる犬種(交雑種も含む)5種です。これらの犬を飼うためには居住する管轄の市当局の許可が必要で、口輪の常時着用義務などの条件つきでやっと飼うことができます。それに伴い高額な犬税も課せられます。犬税は管轄の自治体によって大きく差がありますが、通常年間およそ100ユーロ(15700円)のところが、“闘犬”ではおよそ800ユーロ(125600円)です。
- Pit-Bull (ピットブル)
- Bandog (バンドッグ)
- American Staffordshire Terrier (アメリカン スタッフォードシャーテリア)
- Staffordshire Bullterrier (スタッフォードシャーブルテリア)
- Tosa-Inu (土佐犬)
カテゴリー2は闘犬としての特性は備わっているけれど、管轄の市当局の鑑定人(専門の獣医師など)による気質テストを受け、問題がなければ攻撃性や危険性はないという陰性証明書が発行され、すなわち“普通の犬”とみなされ、問題があれば“闘犬”とみなされる以下14の犬種です。
- American Bulldog(アメリカン・ブルドッグ)
- Alano(アラノ)
- Bullmastiff(ブルマスティフ)
- Bullterrier(ブル・テリア)
- Cane Corso(ケーン・コルソ)
- Dog Argentino(ドゴ・アルヘンティーノ)
- Dogue de Bordeaux (ドグ・ド・ボルドー)
- Fila Brasileiro(フィラ・ブラジレイロ)
- Mastiff(マスティフ)
- Mastin Espanol(マスティン・エスパニョール)
- Mastino Napoletano(マスティノ・ナポレターノ)
- Dogo Canario(ドゴ・カナリオ)
- Perro de Presa Mallorquin(ペロ・デ・プレサマヨルキン)
- Rottweiler (ロットワイラー)
バイエルン州では近年、犬の咬傷事故が大幅に増加しており、2011年に登録された咬傷事件の数は870件、2018年には1281件が記録されています。これらの咬傷事件の大半は、いわゆる闘犬によるものではなく、94パーセントが「その他の犬種」、つまり、ジャーマン・シェパードやダックスフントなどでした。55パーセントのケースで犬は人に咬みつき、45パーセントは他の犬や動物を攻撃しています。
それにしても、ドイツでは見たこともないような日本の土佐犬がカテゴリー1に挙げられているのは不思議です。絶対数としては、ジャーマン・シェパードによる事故が圧倒的に多いのですが、シェパード犬はドイツでは最も多く飼われている犬種であり、警察犬としても活躍していることを考えれば、シェパード犬が、この危険な犬のリストに挙げられることはないでしょう。
危険な犬種は存在するのか?
攻撃的で咬みつきたがる特定の犬種が存在するかどうかは、例えばドイツ獣医師会など、多方面から疑問視されており、危険な犬種の分類には賛否両論があります。
実際、ドイツでもオーストリアでも、危険犬種リストがある連邦州で、リストがない連邦州よりも事故発生件数が有意に少ないという兆候はなく、その有効性も疑問視されています。
2019年、ウィーン獣医大学は調査研究の中で、犬種特有の危険性は科学的に証明することも、信頼できる咬傷統計によって立証することもできないと結論づけています。
原則的に、多くの動物愛護活動家は、闘犬としてリストアップされている犬種リストを、動物や飼い主に対する不当な扱いであると訴え、「闘犬などというものは存在しない!」と唱える人が多いのも事実です。闘犬としてリストアップされた犬が、口輪の着用義務や常にリードにつながれていなければならないことで、他の犬種の個体との正常な社会的行動が育たなくなってしまうなどの危惧も指摘されています。
飼い主による犬の扱いが重要な役割を果たし、虐待されていたり、適切に社会化されていなかったり、あるいは攻撃的が増すように育てられた犬は、犬種にかかわらず攻撃的な行動を示すリスクが高いことは否定できません。
さいごに
どんな犬でも、人や他の動物に危害を加えないという保証はありません。小型犬でもトラブルを起こすことはあります。すべての犬の飼い主は、どんな犬種を飼っていても、基本的なしつけをして、他人や他の動物にとって危険な存在にならないようにしなければなりません。日頃からのトレーニングを通して犬と良好な信頼関係を築き、犬を常にコントロールできる状態をつくっておくことが大切です。犬に対する苦情や事故が起これば、結局はそれを規制する規則がつくられるきっかけとなり、犬の自由がなくなることにつながります。
参考資料
https://www.oe24.at/oesterreich/chronik/oberoesterreich/toedliche-attacke-hundehalterin-drohen-bis-zu-3-jahre-haft/571227187
https://www.gesetzebayern.de/Content/Document/BayHundAgressV/True
https://www.augsburger-allgemeine.de/bayern/Tiere-Zahl-der-Hunde-Attacken-in-Bayern-steigt-deutlich-id56738986.html