ドイツ在住獣医師によるドイツのペット事情~猫編~迷子猫や野良猫問題

飼い猫

ドイツでの猫の人気はここ数年ずっと定着しており、ペットとしては一番人気で、2018年の猫の飼育数は1480万匹です。猫編では、法律、迷子猫サーチのデータバンク、野良猫問題などについてご紹介します。

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飼い方~避妊・去勢手術の義務

猫用ドア

現在ドイツでは、猫の“完全室内飼い”と外にも出ることができる“半外飼い”の割合は同じぐらいです。つまり2匹に1匹は何らかの形で家の外に出ていることになります。

郊外などでは、飼い猫が好きなときに出入りできるように、猫専用出入り口をとりつけている家もみられます。飼い主がいちいち窓やドアを開け閉めすることなく、猫が好きなときにいつでも自由に庭などに遊びに行ったりできるので便利なのですが、野良猫や隣の家の猫が出入り口から入り込み、おまけに餌まで食べていた…なんていうことがよくありました。

最近は便利なセンサー付きの猫専用出入り口が購入できるのでそんな心配もありません。飼い猫のマイクロチップ、あるいは首輪につける認識タグに反応するので、他の猫は入ってくることはできません。商品によっては最高32匹までのマイクロチップの番号を登録することができ、特定の猫だけ出入りできるようにセットしたり、夜など帰ってくるだけで外には出て行けないようにセットすることも可能です。

ドイツ中西部に位置するPaderborn(パーダーボルン)という市で2008年に、ドイツでは第一の都市として”外に出る可能性のある全ての5ヶ月以上の飼い猫”に対して、マイクロチップの挿入・データバンクへの登録および避妊・去勢手術が義務づけられました。もちろん、野良猫に餌をやっている人に対しても同様です。パーダーボルンを見習って現在およそ662の地方自治体でもこの義務づけが条例化されており、今後ドイツ全国に広がっていくことでしょう。この条例は、ドイツ全土でおよそ200万匹とも推測されている野良猫の数が増えるのを防ぐのが目的です。

迷子の猫

ドイツでは年間およそ30万匹もの飼い犬・飼い猫が迷子になっています。とくに飼い猫が行方不明になるケースが増えています。以前は、古着の回収と偽り夜中に猫を捕獲し売買、最悪の場合は猫の毛皮を売買している悪業者の仕業であることも多かったのですが、実際には外で事故にあったり迷子になったりして帰れなくなっている猫が大多数です。

ドイツには、ヨーロッパ内でも最大規模を誇るTASSO e.V.という登録無料、24時間体制の電話のサービスも設置してあるペットの迷子サーチのデーターバンクがあります。飼い主の情報とペットの情報(マイクロチップの番号、誕生日、品種、毛色など)を登録しておくことで、最近は迷子の犬・猫が見つかるケースが増えました。TASSO e.V.は動物保護団体として認められており、寄付によって運営されています。現在およそ930万匹ものペットが登録されており、年間88,000匹もの迷子が無事に飼い主のもとに戻りました。

マイクロチップの挿入・登録は、車で犬や猫を連れて旅行することも多いヨーロッパ諸国では日本に比べると広く普及しています。飼い猫が迷子になったときに、保護されているティアハイムや動物病院で、データベースに登録されている情報と照合することで猫が飼い主のもとに戻ってくる可能性が高くなります。マイクロチップが普及してから、ドイツでは捨てられる犬や猫の数が大きく減りました。飼い主の身元がバレてしまうので、簡単に捨てることができなくなったわけです。これもマイクロチップの恩恵といえます。

野良猫問題

野良猫

ドイツ・日本を含め多くの先進国が「野良猫問題」を抱えています。猫を好ましく思っていない人達もいます。住宅街では猫の声がうるさかったり糞尿やいたずらなどの苦情もあるでしょう。猫が媒介して人間にうつる病気もあります。郊外では野鳥の数が減るなどの動物生態系への影響も大きな環境問題として取り上げられています。それぞれの国の立地条件はもとより、猫との歴史、宗教や文化の違い、そしてひとりひとりの猫に対する思いは違います。

現状

ドイツの市内で野良猫、つまり飼い主のいない猫をほとんど見かけることはありませんが、それでも現在、およそ200万匹の野良猫がドイツ国内にいると推測されています。避妊・去勢手術をせずに放し飼いにされたり、放置されたり迷子になったりした飼い猫が増えた結果です。避妊・去勢をしていなければ、野良猫の数はだるま式に増えます。猫は6ヶ月前後で繁殖能力が備わり、野良猫は平均すれば年に2回、1回当たり3~6頭くらいの子猫を生みます。高い子猫の死亡率にもかかわらず、人間の介入がない限り、野良猫の数が減ることはありません。

余談ですが、長期の休暇の前には、捨てられるペットの数が増加します。また、医療費がかさむという経済的な理由で高齢の犬・猫が置き去りにされるというケースも増えています。ドイツにはティアハイム呼ばれる動物保護施設があり、捨てられて保護された動物はそこでずっと暮すことができるので別によいのではないかと思われがちですが、高齢のペットや病気のペットは引き取られる可能性もほとんどなく、これまで飼い主を信頼して共に暮らしていたペットが、動物保護施設で暮すのは決して幸せな状態とはいえません。

対策

ドイツでも日本と同様にTNR活動が積極的に行われています。TNR活動は、飼い主のいない猫を捕獲し(Trap)、去勢・避妊手術を済ませて(Neuter)、わかりやすいように目印(耳の先を少しだけカットするなど)をつけてから元の場所に戻す(Return)活動です。地域の住民、行政、ボランティアや動物保護団体、獣医師など多くの人の理解と協力が必要です。

野良猫から生まれた人になついていない猫は警戒心も強く、動きが機敏で小さな場所に入り込めば保護するのは容易ではありません。病気や怪我をしている猫を除いては避妊・去勢手術を済ませて、ストレスがかからないよう(なるべく)その日のうちに元の場所に戻します。そして、可能な場所に寝場所を設置して、定期的に地域の住民やボランティアが餌やりをし、健康・衛生管理します。地域によっては、これらの場所にわざわざ猫を捨てに来る人がいるなどという問題も発生しています。子猫や人間にとてもなついている成猫は、避妊・去勢手術をした後、近くの動物保護施設で新しい飼い主に引き取られるのを待つことになります。

さいごに

TNR活動と同時に、猫の飼い主には「マイクロチップの挿入及び登録の義務づけ、猫を外に出すなら避妊・去勢手術の実施、一度飼ったら最後まで面倒をみること」を徹底してよびかけ、家庭や学校などでも子供にペットとの接し方、命の尊さについて早くから教えていくことが大切です。結局のところ、人への対策を徹底しなければ「野良猫問題」の解決はないといっても過言ではありません。