ドイツでは10年ほど前から「アニマルホーディング」という言葉をよく耳にするようになりました。動物保護団体や獣医局がこの問題に取り組んでいるにもかかわらず、その数は年々増え続けています。日本でも「多頭飼育崩壊」という言葉を頻繁に目にするようになり、大きな社会問題になっています。
アニマルホーディングとは?
アニマルホーディング(Animal Hoarding)とは病的な多頭飼育を意味し、たくさんの動物が適していない環境(食餌、スペース、衛生状態、ケアや医療措置において)で飼われている状態のことです。
そして、飼い主(アニマルホーダー=過剰多頭飼育者)は、動物にも自分自身にも問題があるという自覚をもっておらず、状態が悪化することが認識できずに、さらにその数を増やしていきます。ほとんどの飼い主は動物が何匹いるのかさえも把握しておらず、精神疾患の一種とも考えられています。アニマルホーディングで飼い主が飼育不可能になる状態が多頭飼育崩壊です。
アニマルホーディングの現状
ほとんどの場合、近所の人の苦情(汚臭や鳴き声)や注意深い観察によって、アニマルホーディングが発覚します。糞尿が床に垂れ流し状態で飼われていたり、狭い敷地内でろくに餌ももらわずやせ細った状態で放し飼いされていたりするからです。中には飼い主の入院や孤独死、引っ越し(動物を置き去りにして)で問題が発覚することもあります。連絡を受けた動物保護団体、獣医局も飼い主の承諾なしには敷地内に勝手に入ることはできず、法的手段をとって許可を待っている間に動物をどこかに隠されたり、死亡したりするケースも増えています。
これまで一番多く被害に遭っている動物は猫、次いで犬、うさぎです。ほとんどが床に糞尿垂れ流しという不衛生な状態で飼われ、60%の動物はすでに病気にかかっており、30%のケースで動物の死骸が見つかったという悲惨な状態です。最近では、自称“ブリーダー”が劣悪な環境で栄養状態の悪い100匹以上の猫、200匹の犬を飼育していた例もありました。ドイツ全体で2018年に報告された数は3900匹にもおよび、その数は年々増えています。
アニマルホーダーのタイプ
自称“動物を愛する”アニマルホーダーが、なぜ動物虐待ともいえる行為を犯すのでしょうか?
アニマルホーディング研究評議会(Hoarding of Animals Research Consortium-HARC)によると、アニマルホーダーは、中高年以上,ひとり暮らしの社会経済的に不利な立場にある女性に多く見られるという報告がありますが、中にはその行為をひたすら秘密にして2重生活を送っているようなアニマルホーダーもおり、誰もが何かのきっかけでアニマルホーダーになる可能性があります。アニマルホーダーは以下のような4種類のタイプに分類できます。
過剰な世話タイプ
このタイプは、動物だけが唯一の話し相手という、多くは社会からやや孤立している状態の人。はじめは何匹かの動物を世話するだけなのですが、ペットの繁殖力についての知識不足や経済的な理由から不妊・去勢手術を怠って飼い続けるうちに、動物の数があっという間に増えてしまいます。その他、飼い主自身が高齢であったり病気になったりすることで、動物の世話どころか、不衛生な状況を自分で認識することもできず、加えて相談できる人もなく・・・結局どうしようもない状態に陥ってしまいます。
動物救済者タイプ
このタイプは、社会から孤立しているわけではないのですが、動物を救うことが自分の使命であると頑なに信じ、1匹でも多くの動物を救おうと活動します。不幸と思われる動物を積極的に集め、結局その数が増え続けることにより、スペース、食餌、衛生状態、ケアや医療措置において適した環境での飼育が困難になってきます。強い責任感から多頭飼育崩壊を放っておけずに、善意のボランティアがアニマルホーダーになってしまうケースもあります。
ブリーダータイプ
このタイプは、犬、猫などのペットをショーに出すことや、売買することを目的で繁殖させるのですが、思うように売れなかったりすることによって、いつのまにか繁殖のコントロールを失ってしまうというタイプです。
搾取者タイプ
このタイプは、自分のエゴだけで愛情もないのに(物を衝動買いするように)気まぐれにたくさんの動物を集め、ケアや医療措置においてもほったらかしです。それに対して何の罪悪感もなく、自信のある態度で平気でうそをつき、社会的にはなんら問題なく生活していたりするので、発見されにくい厄介なタイプと言えるでしょう。
アニマルホーディングの今後
アニマルホーディングは、ドイツでも大きな問題であり、動物保護団体、獣医局、行政が皆で協力して解決していく必要があります。
ペットの避妊・去勢手術をサポートしたり、動物を没収して一時的に動物保護施設に保護して動物の飼育を禁止しても、それで問題が解決されるわけではありません。動物保護施設の負担が大きくなることもさることながら、保護された動物は病気であったり人間不信になっていたりすることも多く、新しい飼い主がみつかることは簡単ではありません。
さらに、一度アニマルホーディングを犯したアニマルホーダーは、再びその行為を繰り返す可能性が高いことがわかっています。アニマルホーダーである飼い主の心の治療を行うことなしには解決できない問題といえるでしょう。
参考資料
Hintergrundinformationen zu Animal Hoarding – Deutscher Tierschutzbund 2013
Deutsches Tierärzteblatt März 2020