考えたくはありませんが、ペットと暮らしているといつかお別れのときがやってきます。“寿命を全うして、家族の腕の中で穏やかに眠るように最後のときを迎えることができた…”というのはごく一部の幸せな飼い主さんです。ペットの死後、深い悲しみ、「あの時こうしていれば…」という後悔や罪悪感にさいなまれたり、周りの人に理解してもらえなかったりでつらい日々を過ごしている飼い主さんがたくさんいらっしゃいます。とても重いテーマですが、なるべく後悔のないように、ペットが元気なうちから、飼い主としてできることや心の準備をすることも大切です。
ペットを失う悲しみ
愛するペットが亡くなった時、深い悲しみや喪失感に襲われるのは当然のことです。その悲しみの大きさ、その現れ方や 続く時間も人それぞれです。身近な人を亡くした時よりも悲しいという人も少なからずいらっしゃるでしょう。実際、ペットとの死別によっても、大切な人を亡くしたあとの悲しみと同様、長期にわたり強い悲嘆が続き、日常生活に支障をきたすような状態が生じうることを示した研究が2026年に発表されています。
遷延性悲嘆症(せんえんせいひたんしょう)(Prolonged Grief Disorder:PGD)とは、大切な人を亡くしたあとの悲しみが、通常の範囲を超えて長引き、日常生活に深刻な支障をきたす状態になる精神疾患です。精神疾患の診断・統計マニュアルでは、診断の対象となる死別は人の死に限られており、ペットの死は診断基準に含まれていません。
しかし、ペットは多くの人にとって単なる動物ではなく、家族の一員であり、強い愛着で結ばれています。そのため、ペットとの死別によっても、深刻で長期的な悲嘆が生じる可能性があります。
この研究では、英国の成人975人を対象に、死別経験や悲嘆症状について質問紙調査を実施しました。そして、ペットとの死別と人との死別について、PGDに関連する症状の割合や、症状の構造を比較しました。
主な結果:
- 調査対象者の32.6%がペットとの死別を経験していました。
- 人とペットの両方との死別を経験した人のうち、21.0%が、最も苦痛だった死別としてペットの死を挙げました。
- ペットとの死別を最も苦痛だった死別として報告した人では、7.5%がICD-11(国際疾病分類)のPGDの診断要件に相当する症状を示しPGDと判定できました。ちなみに、死別の種類とPGDの該当率は以下の通りでした。
| 死別の種類 | PGDの該当率 |
| 子ども | 21.3% |
| 親 | 11.2% |
| パートナー | 9.1% |
| 兄弟 | 8.9% |
| その他の親族 | 8.3% |
| 親しい友人 | 7.8% |
| ペット | 7.5% |
著者の考察:
調査結果は、ペットとの死別後にも、人との死別後と同様に、臨床的に重要な悲嘆が生じうることを示唆しています。ペットとの死別による悲嘆も、単なる一時的な寂しさではなく、長期間にわたって生活に影響を及ぼす深刻な体験になりうるということです。そのため、ペットを亡くした際の悲嘆を、人との死別よりも軽いものとして一律に扱うことには問題があります。
著者は、ペットとの死別をPGDの診断対象から除外している現在の枠組みについて、再検討する必要性を示しています。ただ、この調査は英国の成人を対象とした研究であり、他の文化や社会的背景にそのまま当てはまるとは限りません。ペットとの死別後のPGDを正式な診断対象に加えるべきだと結論づけるには、さらなる研究が必要です。
ペットを失った悲しみを乗り越える
ペットを失った悲しみは、ごく自然な感情
愛するペットを失うことが、深い悲しみをもたらすのは当然のことです。悲しみの度合を比べることはできませんが、飼い主の年齢や性格、ペットとの関係やペットの年齢や死因などによっても大きく左右されます。ペットとのきずなが強ければ強いほど、心の痛みはより強くなるでしょう。
悲しみのプロセスは徐々に進行するもので、無理強いしたり急がせたりすることはできません。数週間、あるいは数ヶ月で気持ちが楽になる人もいれば、何年もかかる人もいます。
悲しみを乗り越えるには、感情を押し殺したり無視したりするのではなく、時間をかけてじっくりと向き合い、プロセスが自然に展開していくのを待つことが大切です。理解をしてくれないがいても気にすることはありません。泣きたいときは思いっきり泣いて、ペットの死を受け入れて、自分なりにしっかりとお別れすることが大切です。寂しさが消えることはありませんが、時が経つにつれ、悲しい気持ちや後悔の念は薄れ、心にぽっかりと空いた穴は、一緒に分かち合ったたくさんの楽しかった思い出が埋めてくれるはずです。
ペットとの思い出を大切にする
愛するペットの死を積極的に悼みお別れすることは、あなたが前に進む助けとなるでしょう。葬儀を執り行ったり、自宅の庭に埋葬する以外にも森林葬といった選択肢もあります。火葬後、遺骨を自宅に保管したり、思い出深い場所に散骨したりする人もいます。粘土で足跡を取ったり、亡くなったペットの毛や遺骨の一部をアクセサリーにして身につける人もいらっしゃいます。あなたとペットとの関係に合った追悼の形を選ぶことは、精神的な支えになるはずです。
喜びも悲しみも含め、ペットとの思い出を受け入れることは、時には辛いプロセスですが、大切な思い出を心に留めるのに役立ちます。例えば、写真アルバムを作ったり、ペットへの追悼の言葉を書いたり、追悼の意を表した場所を家の中に設けたり、ペットを偲んで木を植えたり、家族や友人とペットとの思い出を共有したりすることなどです。クリエイティブな才能のある方なら、絵を描いたり、ペットに似せた羊毛フェルト人形を作ってみたりすることも心の癒しになるでしょう。
また、同じような経験をした人たちと繋がることが、支えになることもあります。ペットを亡くした飼い主のための支援グループがあれば、そこで安心して自分の気持ちを話したり、経験を共有したりすることができます。オンラインフォーラムやソーシャルメディアグループも、同じ経験をした人たちと繋がる機会を提供してくれます。
安楽死
近年はペットの高齢化が進み、がんや腎不全、認知症などの病気で長期間介護が必要になるケースが増えています。そのため、「治療を続けるか」「自然死を待つか」「安楽死を選ぶか」という難しい選択を迫られるケースが増えています。安楽死を選ぶかどうかにかかわらず、後で後悔しないためにも、安楽死について正しく理解しておくことは大切です。
安楽死とは
安楽死とは「回復の見込みがなく、強い苦痛を取り除くことができない動物に対して、苦しみを最小限にして穏やかに命を終わらせる処置」です。つまり、命を終わらせること自体が目的ではなく、動物の苦痛を終わらせることが目的です。
安楽死に対しての見解は、国や宗教はもちろん、個人の倫理的な観点からも異なってきます。その国の人への医療制度も反映されるでしょう。例えば、人の安楽死が合法化されている国もあるヨーロッパでは、ペットの安楽死を「非人道的」とはとらえず、痛みや苦しみにさらされながら体がゆっくりと活動を停止していく過程を少しだけ早く送り出してあげる「穏やかな死」として捉える傾向があります。飼い主がペットを最後まで自然に看取りたいという倫理観が強い日本に比べると安楽死が選択されるケースが多いと思います。
ペットの安楽死は、多くの場合、麻酔薬が用いられます。獣医師は、まずペットを落ち着かせるために鎮静剤を注射しペットは眠りにつきます。その後、2度目の注射(致死量の麻酔薬)をすると、ペットの呼吸が止まり心臓が停止します。苦痛を伴わず、大好きな飼い主に見守られながら穏やかに旅立ちます。もちろん、事前に家族とお別れする時間をつくってもらうこともできます。安楽死の手段は動物病院によっても多少の違いがあるので、その手順や自宅への往診は可能かなど、不安に思うことがあればきちんと説明を受けておきましょう。
獣医がよく使う「判断の基準(チェックリスト)」
判断の基準は、ペットの生活の質(QOL)が維持されているかどうかです。以下のうち、ほとんどが満たされないような状態(答えがいいえ)になったら安楽死が検討されやすいです。
- 痛みがコントロールできているか
- 食べられるか
- 水を飲めるか
- 衛生状態を保てるか(排泄・排便のお世話)
- 喜び・興味があるか
- 自分で動けるか
- 調子が良い日が悪い日より多いか
安楽死を決める前に重要なこと
以下のことについて、獣医師とよく話し合うことが重要です。
- 病気の状態
- 治療で回復の見込み
- ペットの苦痛の程度
- 自然死の場合の経過
- 安楽死の方法
- 費用
- 家族全員の意見
最終判断は必ず獣医師と飼い主の合意になります。正しい決断に確信が持てず、時間に余裕がある場合は、その特定の病気の専門医にセカンドオピニオンを求めるのも良いでしょう。
飼い主が抱える悩み
安楽死では、動物自身が意思表示できないため、飼い主が代理で決断するしかありません。適切なタイミングを見つけるのは難しく、多くの人が、“本当にこれで良かったのか、もっと治療できたのではないか、自分が命を奪ったのではないか ”という罪悪感や後悔を抱き、もっと待つべきだったのか、あるいは逆に、もっと早く安楽死させるべきだったのかと思い悩むことも多いです。
わたし自身もおよそ一年前に愛猫を安楽死させた経験があります。消化器系の悪性腫瘍でした。できる検査は全て行い、数人の獣医師の意見も聞き納得した上での決断だったので後悔はしていませんが、いまでも思いだすとつらい気持ちになります。
さいごに
家族の一員であるペットとのお別れは、どんなお別れであっても悲しいです。安楽死を選んでも、自然な死を迎えさせてあげても、飼い主さんがペットのために悩みに悩みぬいて出した選択は、ペットと真剣に向き合い愛しているからこそ選んだ最善の選択です。
ペットがいなくなって、ペットが自分にとってどれほど大きな存在であったのかに気づかされます。ペットと一緒に過ごせる時間が限られているからこそ、一緒にいる時間を大切に楽しく過ごしたいですね。一緒に過ごした時間は、幸せな思い出となり、わたし達の心の中にいつまでもしっかりと刻み込まれます。
参考資料:No pets allowed: Evidence that prolonged grief disorder can occur following the death of a pet.PLOS ONE : January 14, 2026